著者
上谷 直克
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカ・レポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.1-18, 2022 (Released:2022-01-31)
参考文献数
35
被引用文献数
2

2019年に大規模な社会騒乱を経験したラテンアメリカ諸国は、そのさなかにCOVID-19に襲われ、感染者や死者が断続的に増加するなか、多くの国で厳格なロックダウンが施行された。しかし、もちろん各国の政治は政治であるがゆえにその動きを止めることはなく、極端にはハイチの大統領暗殺事件など、多様な政治事象が生じている。本稿では、このように「混乱するラテンアメリカ政治」の今を捉えるべく、複数のラテンアメリカ諸国の事例を対象にさまざまなデータを用いつつ、「国家の脆弱性」「政治体制の変動」「代表制の危機」などいくつか政治学の重要テーマに絞って、問題や論点の明確化と整理を試みる。
著者
上谷 直克
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカ・レポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.51-70, 2020 (Released:2020-01-31)
参考文献数
15

2019年の5月にV-Dem(Varieties of Democracy)研究所から発行された年報『Democracy Facing Global Challenges-V-Dem Annual Democracy Report 2019』によると、昨年のレポートでここ約10年の世界の民主政の特徴として指摘された、「民主主義の後退(democratic backsliding)」や「専制化(autocratization)」傾向が相変わらず続いているという。中南米地域についても、引き続き「専制化」が指摘されるニカラグアやベネズエラ、「後退」するブラジルに加え、新たにハイチやホンジュラスでも「後退」や「専制化」傾向が認められた。そこで本稿では、そうして「専制化」するホンジュラスや、隣接するグアテマラ、エルサルバドルの、いわゆる中米の北部三角地帯諸国(Northern Triangle of Central America、以下NTCs)の「民主主義」の現状について、V-Demの様ざまな指標の変化に着目しつつ、報告する。
著者
日野 愛郎 新川 匠郎 藤田 泰昌 網谷 龍介 粕谷 祐子 上谷 直克 木寺 元 岡田 勇
出版者
早稲田大学
雑誌
挑戦的研究(開拓)
巻号頁・発行日
2023-06-30

本研究は質的比較分析(Qualitative Comparative Analysis)の開発、比較検討、実践を共創的に展開し、政治学の更なる発展に道筋を付ける。QCAは複数条件の組み合わせを網羅的に扱い、必要条件性や十分条件性をブール代数や集合論を基に把握する。本研究は(1)政治学が強い関心を払う歴史的・時間的な変動を分析可能とするTime-differencing QCAの方法を開発し、(2)先行研究のデータ分析を再現する中で、結果を規定する原因の「条件性」を他の手法と比較検討してQCAの独自性を明確にし、(3)比較政治、国際関係、行政学の各領域での実践を基に分析のガイドラインを作成する。
著者
上谷 直克
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカ・レポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.1-25, 2019 (Released:2019-03-07)
参考文献数
19

今年V-Dem(Varieties of Democracy)研究所から発行された年報Democracy Report 2018: Democracy for All?によると、ここ約10年の世界の民主政の様態は、概して「独裁化(autocratization)」傾向を示しているという。もちろん、普通選挙の実施に限れば、常態化している国もみられるため、この場合の「独裁化」は、普通選挙以外の側面、つまり、表現および結社の自由や法の下の平等に関してのものである。現代社会で最も正当とみなしうる政治体制は自由民主主義体制であり、それは慣例的に「自由」を省略して単に「民主主義体制」と呼ばれるが、皮肉にも現在、世界の多様な民主制が概してダメージを被っているのは、まさにこの省略されがちな「自由」の部分なのである。同時期のラテンアメリカ諸国での民主政をみてみると、ここでも選挙民主主義の点では安定した様相をみせているが、自由民主主義指標の変化でみると、ブラジル、ドミニカ共和国、エクアドル、ニカラグア、ベネズエラの国々でその数値の低下がみられた。しかし,世界的な傾向とは若干異なり,これらの国では「自由」の中でも,執政権に対する司法や立法権からの制約の低下が著しかった。本稿では、上記の世界的傾向や近年のラテンアメリカ地域での傾向をV-Demデータを使ってみたところ低下がみられた、ベネズエラを除いた上記4カ国の最近の政治状況について端的に報告する。
著者
仙石 学 松本 充豊 井上 睦 馬場 香織 油本 真理 磯崎 典世 横田 正顕 出岡 直也 小森 宏美 中田 瑞穂 上谷 直克
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究課題「政党政治の変動と社会政策の変容の連関:新興民主主義国の比較」は、世界金融危機の発生以後の新興民主主義国(主に東欧・南欧・ラテンアメリカ・東アジア)における社会政策・福祉枠組みの変容について、危機後の政治経済状況の変化に起因する「政党政治の変動」を軸に検討していくことを目的とする。特に世界金融危機の後に生じた既存政党の弱体化とポピュリスト系を中心とする新興政党の台頭が、危機以前に存在していた社会政策や福祉のあり方をどのように変革させたかという点に注目し、各国ごとの政党政治と制度変容の展開を検討すると同時に、これを体系的な形で比較分析を行うことを進めることとする。
著者
上谷 直克
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカ・レポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.20-35, 2021 (Released:2021-01-31)
参考文献数
12

2020年4月に、ラテンアメリカでの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による政治・社会的影響について報告書を出したブロフィールド(Merike Blofield)らによれば、COVID-19の厄災は、どの指導者がいかなるリーダーシップを発揮して国民から協力を引き出し、危機を打開しうるかという「政治的リーダーシップの試金石」だという。本稿ではグアテマラ、ホンジュラス、エルサルバドルの中米・北部三角地帯諸国(NTCs)におけるCOVID-19の感染状況について概観し、非常事態宣言を軸とした各国の政策対応について確認する。その後、今やCOVID-19拡大の第2波ないし第3波に直面する世界で、改めて求められている為政者による巧妙なリーダーシップという観点から、北部三カ国のCOVID-19下での政治状況について論じる。
著者
上谷 直克
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
ラテンアメリカ・レポート (ISSN:09103317)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.1-25, 2019

<p>今年V-Dem(Varieties of Democracy)研究所から発行された年報<i>Democracy Report 2018: Democracy for All?</i>によると、ここ約10年の世界の民主政の様態は、概して「独裁化(autocratization)」傾向を示しているという。もちろん、普通選挙の実施に限れば、常態化している国もみられるため、この場合の「独裁化」は、普通選挙以外の側面、つまり、表現および結社の自由や法の下の平等に関してのものである。現代社会で最も正当とみなしうる政治体制は自由民主主義体制であり、それは慣例的に「自由」を省略して単に「民主主義体制」と呼ばれるが、皮肉にも現在、世界の多様な民主制が概してダメージを被っているのは、まさにこの省略されがちな「自由」の部分なのである。同時期のラテンアメリカ諸国での民主政をみてみると、ここでも選挙民主主義の点では安定した様相をみせているが、自由民主主義指標の変化でみると、ブラジル、ドミニカ共和国、エクアドル、ニカラグア、ベネズエラの国々でその数値の低下がみられた。しかし,世界的な傾向とは若干異なり,これらの国では「自由」の中でも,執政権に対する司法や立法権からの制約の低下が著しかった。本稿では、上記の世界的傾向や近年のラテンアメリカ地域での傾向をV-Demデータを使ってみたところ低下がみられた、ベネズエラを除いた上記4カ国の最近の政治状況について端的に報告する。</p>
著者
上谷 直克 Uetani Naokatsu
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アジア経済
巻号頁・発行日
vol.53, no.6, pp.2-34, 2012-12

本稿の目的は,1980年代から2000年代の前半にラテンアメリカ地域で多数生じた「大統領への挑戦/失墜」に関するさまざまな議論を,数理モデルによって架橋し,この政治現象の因果ロジックを解明することである。そしてこの作業を経て得られた5つのポイントに注目しつつ,近年のエクアドルで生じた3つの挑戦/失墜事例(1997,2000,2005年)により,モデルの含意を検証した。結果,挑戦から失墜,とくにその収束のありかた(解任か追放か)に大きな影響をもつのが,抗議運動の「強さ」や志向性の如何によって変動する議会枢要プレイヤーの期待利得であることが確認された。すなわち,大統領-議会関係だけでもなく,また,抗議運動や個々の社会運動組織だけでもなく,やはり両者の相互作用を過程追跡しない限り,大統領への挑戦/失墜の「分析」は不十分なものとなるのである。