著者
Wolfgang Jagodzinski Hermann Duelmer 稲垣 佑典 前田 忠彦
出版者
日本分類学会
雑誌
データ分析の理論と応用 (ISSN:21864195)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.25-46, 2019-06-01 (Released:2019-11-22)
参考文献数
29

Yamagishi & Yamagishi は,アメリカと比べて日本では一般的信頼が低いことを示したうえで,日本社会で広く見られる長期的なコミットメント関係が,一般的信頼の欠如をもたらしたと考察した. これに対して本研究は,「日本人の国民性調査」の二次分析を通じて,日本におけるコミットメント関係への選好が過去35 年ほどの間に一般的信頼の水準に強い影響を及ぼしたという仮説に疑問を投げかけるものである. なお,分析からは,一般的信頼と以下のような事柄との関連性が示唆された. ①一般的信頼は「年齢」によって弱い正の影響を受けるが,「教育」によって強い正の影響を受ける.したがって,教育機会の拡大と政治的関心の広がりによる「認知動員」の上昇や日本社会の高齢化の過程は,一般的信頼の向上をもたらした可能性がある.②都市化の影響については,依然としてあいまいなままであった. ③「性別」について、初期の調査時点では女性の一般的信頼は低かったが,1990 年頃になるとこのような性差は消失した. ただし上記の変数は,いわゆる「失われた10 年」や2008 年の世界的な経済危機の影響によって生じたと考えられる,1990~2008 年の一般的信頼の低下を説明するものではなかった.