著者
山梨 八重子 ヤマナシ ヤエコ Yamanashi Yaeko
出版者
熊本大学
雑誌
先端倫理研究 : 熊本大学倫理学研究室紀要 (ISSN:18807879)
巻号頁・発行日
no.12, pp.84-89, 2018-03

我々は自殺を試みようとする者を目の前にしたとき、とっさにそれに介入し阻止するだろう。阻止介入に対して、その当事者からの非難や抗議の声があるとしても、社会通念は介入を当然の行為とみなし、もし介入せずに放置したならば道徳的な責めを受けるであろう。しかし自殺自体は本人の意思による行為であり自己決定を優位にとらえるならば、それを阻止する介入は、その自己決定に対する侵害と見なされる可能性もある。本レポートでは、意志ある者で行為可能な者による自死に限定し、自死に対する道徳的判断とさらに、自死を踏みとどまる時、我々の中に生起する思いとその判断の根底にあるものを、R・ドゥオーキン(Ronald Dwoekin)の人間の生の「本来的価値」を手がかりに検討することを目的とする。