著者
福井 修
出版者
富山大学経済学部
雑誌
富山大学紀要.富大経済論集 (ISSN:02863642)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.277-298, 2018-03

信託財産は受託者に帰属しているが,受託者の固有財産とは別扱いされる。これを信託財産の独立性といい,信託の特徴のうち中核的なものである。自己信託を除いて信託設定によって信託財産は委託者から受託者に移転しているが,信託財産の独立性から,受託者の債権者は信託財産に対して強制執行が認めらない。さらに,信託設定時点で委託者の責任財産からは切り離されるので,委託者の債権者も強制執行の対象とすることはできない。このように受託者の債権者も,委託者の債権者も信託財産に対して強制執行することは認められないが,信託においては強制執行と無縁というわけではない。すなわち,信託で利益を受けるのは受益者であり,受益者の債権者はこの利益を受ける権利,すなわち受益権に対して強制執行が認められる。ただ,英米では親族のうち財産管理がうまくできない者のために信託を設定して,生活を守りたいということも,信託を利用する動機の一つであった。その場合には受益者の債権者が受益権を差押えることを信託設定者が極力回避したいと考える場合もある。信託設定者の意思をどこまで尊重するかという論点があり,この点については従来必ずしも結論が一致しているとはいえない状況にある。本稿はこのような信託受益権に対する差押えについて,考察するものである。

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