- 著者
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岡村 心平
- 出版者
- 関西大学大学院心理学研究科心理臨床学専攻
- 雑誌
- Psychologist : 関西大学臨床心理専門職大学院紀要
- 巻号頁・発行日
- vol.7, pp.29-38, 2017-03-18
本論文では、対人的な相互作用における交差に関連する「共に感じること(co-feeling)」という概念をめぐって、理論的な検討を行った。まずGendlin(1995)の記述する対人的な相互作用における交差の特徴と、その説明の中で引用されるGilligan and Wiggins(1987)の「共に感じること」という概念を取り上げ、この概念が従来の心理学的な「共感」概念と対比的に用いられており、そこに同一化が含まれるか否かの相違があることを示した。また、この「共に感じること」という概念がクンデラの小説『存在の耐えられない軽さ』から援用されたもので、「同情」という語のパラフレーズとして使用されていることを概観した。次節では、心理療法における共感概念、特にロジャーズの「共感的理解」とフロイトによる「共感」に関する記述を参照し、「共に感じること」との比較検討を行った。フロイトは共感を「同一化」と関連づけ論じており、一方でロジャーズの共感的理解と「共に感じること」は、同一化に基づかない点で共通していることを提示した。また、共感的理解の特徴である“as if” という性質は、「AをあたかもBであるかのように」理解するというメタファーにおける交差の機能やその仮想性にも見られ、この点においても、ロジャーズの共感的理解と、ジェンドリンの交差概念や「共に感じること」という概念との間に共通点が見出された。