著者
松尾 隆佑
出版者
法政大学サステイナビリティ研究所
雑誌
サステイナビリティ研究 = Research on Sustainability : The Academic Journal of the Research Center for Sustainability (ISSN:2185260X)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.23-43, 2017-03-15

和文:原発事故被災地の再生へ向けては、放射性物質により汚染された大量の廃棄物への対処が不可避の課題となる。本稿では、汚染廃棄物処理政策の枠組みを整理し、汚染度の高い廃棄物を長期保管する中間貯蔵施設の建設計画に伴う問題点を分析した上で、広域に拡散した「住民」の合意に基づく対処のために必要な考え方を提示する。福島県内での中間貯蔵施設の建設は予定地住民への追加的加害である上に、廃棄物の早期搬出を求める他地域住民とのあいだで、被災者同士の分断を引き起こしうる。また、中間貯蔵後の県外最終処分の見通しは全く立っておらず、施設の跡地利用をめぐる不透明性も大きい。実施主体である環境省は、汚染濃度の低減により大部分の廃棄物は再生利用が可能になると見込むが、多くの自治体では低濃度の廃棄物であっても住民に配慮して処分できない状況が続いている。広義の加害をもたらす汚染廃棄物を発生させた東京電力の責任が曖昧にされる一方で、中間貯蔵は福島や地権者の問題として矮小化されやすい。だが、将来の県外処分や再生利用、あるいは12都県で発生した指定廃棄物、最終処分場の候補地選定が進む高レベル放射性廃棄物などを考慮すれば、汚染廃棄物への対処が局地的・一時的な問題でないことは明らかである。民主的合意に基づく汚染廃棄物への対処を推進するため、日本学術会議が示す多段階の合意形成プロセスを参考に、広域の協議枠組みを整備する必要がある。

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