著者
小村 純江 Komura Sumie
出版者
神奈川大学日本常民文化研究所 非文字資料研究センター
雑誌
非文字資料研究 = The study of nonwritten cultural materials (ISSN:24325481)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.25-55, 2017-09-30

妙見信仰は北極星や北斗七星を神格化した信仰である。古代、中近東の遊牧民や漁民に信仰された北極星や北斗七星への信仰は、やがて中国に伝わり天文道や道教と混じり合い仏教に取り入れられて妙見菩薩への信仰となり、中国、朝鮮からの渡来人により日本に伝わったといわれる。 秩父地方も古くから妙見信仰が伝わった地域であり、その信仰体系の中には現在「屋敷神的要素」「氏神的要素」「生産神的要素」の三つの要素を認めることができる。 本稿で秩父地方を事例とし、この三つの要素を基に妙見が地域に果たす役割と地域の人々の妙見への思いについて調査したところ、次のような傾向を認めることができた。 一つ目の「屋敷神的要素」については、秩父市中宮地にある関根家の敷地内に祀られている「妙見塚」と周辺地域に伝わる妙見を調査した。その結果、「妙見塚」と宮地地域に伝わる妙見は、関根家の屋敷神的存在であるとともに地域の屋敷神的存在として代々守り伝えられていた。二つ目の「氏神的要素」については、秩父神社を災いから守るために祀られたと伝えられる「秩父七妙見」の一つである身形神社を調査したところ、妙見に対する地域の人々の意識は以前と変わらず、今後も妙見を守り伝えていく心意気を持っていた。三つ目の「生産神的要素」については、妙見の祭祀である秩父神社の「御田植際」と「秩父夜祭」を調査した。この二つの祭祀に係る人々は、現在、秩父市内で農業や商業・加工業等、主に生産業に携わっており、妙見への祈りは生産神への祈りとなっている。また、この三つの要素は互いに影響し合う一面を持っていた。 以上の調査を踏まえ、現在の秩父地方の妙見を概観すると次の二つの様相が認められた。一つは「古態の持続性を維持する」妙見であり、「屋敷神的要素」を持つ妙見と「氏神的要素」を持つ妙見の中に伝えられていた。もう一つは妙見の祭祀を媒介とし「地域振興の育成」に貢献する妙見であり、「生産神的要素」を持つ妙見の祭祀の中に伝えられていた。

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