- 著者
-
村井 まや子
Murai Mayako
- 出版者
- 神奈川大学
- 雑誌
- 人文研究 : 神奈川大学人文学会誌
- 巻号頁・発行日
- vol.154, pp.A159-A175, 2004-12-21
一人の女の子がおばあさんの家に向かう途中、森で狼に出会う。子供に寄り道の危険を論す警告話として、あるいは悪い男に食べられるうぶな娘についての性的な寓話として、「赤ずきん」は世界中でもっともよく知られているおとぎ話の一つだろう。そして、もしヒロインが赤いずきんを被っていなかったら、と考えると、この古い物語の最大の魅力はそのタイトルにもなっている赤いずきんにあるといえるかもしれない。しかし、ヒロインは始めから赤いずきんを被っていたわけではなかった。ここではまず、「赤ずきん」と呼ばれるおとぎ話が辿ってきた変遷の中で特に重要と思われる三つのヴァージョンを検討することで、赤いずきんの下に見え隠れする女性の身体をめぐる主題を明らかにする。次に、複数の「赤ずきん」とそれらについての批評をふまえたアンジェラ・カーター(Angela Carter, 1940-92)による再話「狼たちとの交わり」("The Company of Wolves," 1979)が、この伝統的なおとぎ話の解釈の可能性を開いた後に書かれうる、少女と狼、そしておばあさんの間で新たに紡ぎ出される物語として、どのようにこの主題を変奏しているかを考察する。