著者
涌井 秀行
出版者
明治学院大学国際学研究会
雑誌
明治学院大学国際学研究 = Meiji Gakuin review International & regional studies (ISSN:0918984X)
巻号頁・発行日
no.42, pp.1-18, 2012-10

1989年ベルリンの壁の崩壊・東ヨーロッパ諸国の資本主義への回帰と1991年12月のソ連邦の解体は,20世紀「社会主義」とは一体なんだったのか,という強烈な問いをわれわれに投げかけた。それに対する回答は様々であろうが,大きく分けて以下の2点にまとめられるであろう。①社会主義体制の生産調整システムである「計画」と分配の公平を担保する「社会的所有(国・公有)」は,経済制度として機能しない。なぜなら,計画の基礎となる経済計算はそもそも不可能である。同時に「社会的所有(国・公有)」は,社会発展を保証する生産性上昇の要にある労働のインセンティブを確保できない。②「社会主義」の基本理念は誤りではなかったが,実行に誤りがあった。スターリン・ブレジネフに象徴されるソ連共産党の官僚主義の硬直性が問題であった。ソ連は崩壊したが,思想的な基盤であるマルクス=レーニン主義は誤ってはいない。初期マルクスに立ち返って,検証すべきである。本稿はこうした議論を念頭に置きながら,ソ連の「社会主義」経済を実証分析し,崩壊の原因を論究しようとするものである。(1) 本稿は①と②のいずれの立場にも立っていない。論究は20世紀の「熱戦と冷戦」という特異な歴史状況を踏まえてなされなければならない。しかもソ連経済のマクロ的実体分析を踏まえてなされなければならない。(2) その結果,①ソ連の計画経済とは,軍事・宇宙=重化学工業化のための官僚的指令的計画であった。そこではコストは考慮される必要はなく,結果的に生産性の上昇は無視される。これは戦前日本の物動計画にもとづく軍事重化学工業化と同質であり,またアメリカの軍産複合体とも相似形をなしている。ここでの計画は軍事目標の達成に向けられ,有効に機能した。②科学=技術革命を基礎に置く1970年代以降の生産の革新(ME=情報革命)は工業生産の激変を引き出した。③その結果生みだされた安価で豊富な民生品は,「社会主義」社会を崩壊させた。1991年のソ連邦解体は,第2次世界大戦後の第2の「相対的安定期」ともいえる冷戦時代の幕を引き,唯一の超大国となったアメリカの単独行動主義の跳梁・跋扈時代の幕を開けたのである。

言及状況

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商品券は退行現象が顕在化する兆候? (´Д` )( ´Д`) “「徴発→配給」という現物経済から「市場と貨幣」を媒介とする経済への転換がはかられた。” 20 世紀社会主義・ソ連崩壊の歴史的意味 ――冷戦構造の溶解と市場原理主義の全面展開―― 涌井秀行 PDF DLリンク https://t.co/7CKcTFuzDu https://t.co/2PU3NcytzG

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