著者
堀内 進之介
出版者
首都大学東京・都立大学社会学研究会
雑誌
社会学論考
巻号頁・発行日
no.32, pp.29-54, 2011-10-01

本稿の目的は,フランクフルト学派の第三世代として知られるアクセル・ホネットの批判的社会理論の可能性と限界を考察することにある.彼は,批判的社会理論の創始者たちから,社会批判のための「学的反省に先立つ解放の審級」という観点を受け継ぎながら,同時に,第二世代であるユルゲン・ハーパーマスによって切り聞かれたコミュニケーション論的転回という地平も重視している.しかし, ホネットは,ハーパーマスがその地平を語用論による言語分析の方向に展開したことを批判し,それはむしろ人間学的な承認論の方向に展開されるべきであると論じている.その際,彼は創始者たちが重視し,ハーパーマスが軽視した「社会的労働J を,再度,承認論の観点から「学的反省に先立つ解放の審級J として捉え直そうと試みている.すなわちホネットは,社会的労働における承認の期待が損なわれるという経験が,社会的不正の経験の根底にあるということを示そうとしているわけである.しかしながら,こうした試みが成功を収めるためには,r労働者の主体性J を生産効率の鍵と見なす現代の労働環境の下では,労働における「真の承認J と「偽の承認J とを区別できなければならない.しかし,それは相当な困難を伴うように思われる.では,社会批判の可能性の条件とはどのようなものか,本稿ではこの点も若干ではあるが検討しておきたい.

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第三に「連帯」の承認関係において、人は具体的な共同体にとって構成的な価値を持つ者として承認されることで、「自己価値の感情」を持つことができるようになる。 https://t.co/zpmeAeM8cx

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