著者
堀内 進之介
出版者
科学基礎論学会
雑誌
科学基礎論研究 (ISSN:00227668)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.97-107, 2020 (Released:2020-04-11)
参考文献数
43

Along with the advancement of science and technology, the quest for enhancement that can complement and modify human nature towards a better-than-well state is becoming a reality. One of the most tenacious criticisms of enhancement rests on the understanding that a persons’ nature should remain unmediated, thus, advocating the authenticity of human nature. Scholars against this bio-conservative critical position state that it is a conceptual mistake to derive “ought” from “is”. If the latter indication is valid, it is essential for bio-conservatives to present values, principles, and arguments that can refuse enhancement in alternative ways. In contrast, if advocates of technological progress (techno-progressives) want to lend a robust support to enhancement, they should present persuasive arguments rather than merely critiquing the lacunae in bio-conservative arguments. In this survey paper, we focus on contentions put forth by the techno-progressives against the bio-conservatives in attempting to justify enhancement, We especially scrutinise the case made by James Hughes, who advocates the convergence of technological progress and democratic social change.
著者
赤堀 三郎 出口 剛司 飯島 祐介 堀内 進之介 河合 恭平 磯 直樹
出版者
東京女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究は、今日勃興しつつある信用スコアサービス、およびその基礎にある与信管理技術に関し、受容意向という側面に着目し、社会学の立場からこの種の対象を総合的に扱うための枠組を構築しようとするものである。すなわち、第一に、信用スコアに関するデータを収集・整理し、国内外の社会学研究者や他分野の研究者のさらなる探究に資するデータベースを作成し、公開する。第二に、信用スコアの受容意向に関する実態調査を行い、結果を公表する。第三に、上記データベースと調査結果の分析および考察を通じ、「信用スコアの社会学」を確立し、与信管理技術を代表例とする新技術の社会的影響という広範なテーマを扱える社会学理論の創造をはかる。
著者
堀内 進之介
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.169-185, 2019-12-31 (Released:2020-01-18)
参考文献数
45

ビッグデータを解析する情報処理技術の高度化を背景に,評価対象の動向を合理的な精度で予測するアルゴリズムの開発が進んでいる。金融分野では,FinanceとTechnologyを融合させた〈FinTech〉と総称される企業やサービスが,この技術によって顧客の与信管理を自動化したことで,多くの人びとが金融サービスにアクセス可能になった。治安維持や司法の現場でもビッグデータを解析し,将来,誰が被害者や加害者となる蓋然性が高いかを評価する予測アルゴリズムの導入が進んでおり,犯罪予測や予測的ポリシングが常態化しつつある。予測アルゴリズムは多くの恩恵をもたらしているが,他方では,さまざまな人間活動や決定がビッグデータを基にした予測によって影響を受け始めており,自由な活動や決定を委縮させる可能性が増している。そこで,本稿では〈ビッグデータによる予測〉の実態を,特に与信管理との関係を中心にケーススタディとして考察する。この考察では,まず個人のライフチャンスへの影響について,いくつかの事例を取り上げ,それらに共通すると思われる諸問題を整理・検討する。その上で,それら諸問題に関する個人的および社会的な対策にはどのような課題があるかを明らかにする。そして最後に,諸問題の是正には既存の対策に加え,特に何が検討されるべきか,その論点を提示する。
著者
堀内 進之介
出版者
首都大学東京・都立大学社会学研究会
雑誌
社会学論考
巻号頁・発行日
no.32, pp.29-54, 2011-10-01

本稿の目的は,フランクフルト学派の第三世代として知られるアクセル・ホネットの批判的社会理論の可能性と限界を考察することにある.彼は,批判的社会理論の創始者たちから,社会批判のための「学的反省に先立つ解放の審級」という観点を受け継ぎながら,同時に,第二世代であるユルゲン・ハーパーマスによって切り聞かれたコミュニケーション論的転回という地平も重視している.しかし, ホネットは,ハーパーマスがその地平を語用論による言語分析の方向に展開したことを批判し,それはむしろ人間学的な承認論の方向に展開されるべきであると論じている.その際,彼は創始者たちが重視し,ハーパーマスが軽視した「社会的労働J を,再度,承認論の観点から「学的反省に先立つ解放の審級J として捉え直そうと試みている.すなわちホネットは,社会的労働における承認の期待が損なわれるという経験が,社会的不正の経験の根底にあるということを示そうとしているわけである.しかしながら,こうした試みが成功を収めるためには,r労働者の主体性J を生産効率の鍵と見なす現代の労働環境の下では,労働における「真の承認J と「偽の承認J とを区別できなければならない.しかし,それは相当な困難を伴うように思われる.では,社会批判の可能性の条件とはどのようなものか,本稿ではこの点も若干ではあるが検討しておきたい.
著者
堀内 進之介
出版者
首都大学東京・都立大学社会学研究会
雑誌
社会学論考
巻号頁・発行日
no.31, pp.57-82[含 英語文要旨], 2010-10

社会の複雑性が増すなかで,とりわけ90年代以降は,討議的民主主義への期待から,それに関して多くの議論が為されてきた.しかし,討議的民主主義が何を可能にするかではなく,そもそも何がそれを可能にするのかについては,十分に議論が為されているとは言い難い.そこで本稿では,まず市民社会の成立を民主化のための手段として求めた東欧の歴史的経緯を見つつ,市民社会の理念を賞揚したユルゲン・ハーバーマスの,討議倫理学を批判的に検討する.その上で,社会的分業の公正な再編成を通じて,諸個人がその個々の働きに即して,社会的な承認を正当に得る契機を確保することが討議的民主主義には不可欠であると説く,アクセル・ホネットの「ポスト伝統的ゲマインシャフト論」を取り上げ,その論点について整理・検討する.最後に憂慮される点として,以下のことを指摘する.すなわち,社会的な承認が,個々人の主観的な幸福と結びつくとすれば,ポスト伝統的ゲマインシャフト論は,科学的な労働管理の強化を図らずも支持する道を開く可能性があること,そしてそれは結果的に,討議を重視する民主主義を,根底において掘り崩す危険性があることを指摘する.以上により,討議的民主主義の可能性の条件を考察するための,ひとつの視座を提供することが,本稿の目的である.With societies becoming more complex, particularly after the 1990s when expectations for deliberative democracy were rising, there has been a great deal of debate on what deliberative democracy can accomplish. However, the issue of what makes it a possibility has not been fully addressed. In this thesis, I first look at historical circumstances of Eastern Europe, where the establishment of civil societies was demanded as a means for democratization. I will then proceed to critically examine the discourse ethics by Jürgen Habermas who praised the idea of civil society. Furthermore, I will summarize and examine points made by Axel Honneth in his Post-traditional Gemeinschaft theory, in which he argues that it is indispensable for deliberative democracy to ensure each individual member of the society – by means of a fair reorganization of the social division of labour – an opportunity to legitimately receive social recognition according to their roles. Finally, I would like to point out the following problems: If the Post-traditional Gemeinschaft theory is suggesting that social recognition leads to the subjective happiness of each individual, it holds in itself a possibility to unexpectedly support the intensification of scientific labour management. This, as a consequence, could undermine the foundations of a democracy which attaches great importance to deliberation. To summarize, this thesis aims at providing a viewpoint to inquire into the conditions required for the possibility of deliberative democracy.