- 著者
-
藤野 敦子
- 出版者
- 京都産業大学
- 雑誌
- 京都産業大学論集. 社会科学系列 (ISSN:02879719)
- 巻号頁・発行日
- vol.30, pp.155-176, 2013-03
国際労働機関(ILO)の条約の中に、1970年に採択された有給休暇条約(ILO132号条約)がある。本条約では、雇用者に3労働週以上の年次有給休暇が与えられ、そのうち少なくとも2労働週は連続休暇でなければならないと規定している。一方、我が国では、労働基準法39条に年次有給休暇制度が規定されているが、年次有給休暇は10日間から与えられ、それは連続休暇である必要がない。我が国の年次有給休暇制度は国際基準と考えられるILOの基準を満たしていない上に、2010年において、付与された平均年次有給休暇17.8日に対し、取得率はわずか48.1%であった。なぜ、我が国では有給休暇が取得されないのだろうか。我が国の年次有給休暇制度の問題点は何なのだろうか。 本稿では、このような問題意識から、我が国の有給休暇取得日数や1週間以上の連続休暇の取得に影響する要因を、筆者が2010年に正社員男女1300人を対象にWeb上で実施した「正社員の仕事と休暇に関するアンケート」から得られたデータを用いて分析する。分析結果をもとに、年次有給休暇制度がどうあるべきか政策的な示唆を導き出す。 分析の結果は、有給休暇及び連続休暇の取得は、企業の属性や雇用者個人の属性及び雇用者の家族状況に左右されることを示している。具体的には、大企業勤務者、専門・技術職についている者、配偶者も正規就業で働いている者に有給休暇の取得日数が多く、連続休暇も取りやすい。また、週労働時間が長い場合には有給休暇の取得日数を減らし、職場の人間関係のいいこと、年収が多いことは連続休暇の取得を促進する。さらに、年次有給休暇付与日数が多い雇用者ほど、有給休暇日数が多く取得され、連続休暇も取りやすいが、逆に有給休暇の保有日数の多い雇用者ほど、どちらも取得しない傾向が見られる。 これらの結果から、有給休暇を考慮した働き方の管理、雇用対策と組み合わせた代替要員の確保、ジェンダー平等政策の推進、余暇意識の醸成といった雇用環境や個人の意識を向上させる政策がいくつか提案できる。また、労働基準法で定められている有給休暇の次年度繰越の再考など、法そのものの改善についても示唆できる。