- 著者
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川田 学
- 出版者
- 北海道大学大学院教育学研究院
- 雑誌
- 北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
- 巻号頁・発行日
- vol.113, pp.55-80, 2011-08-22
【要旨】自閉症における自他認識の発達を検討するために,自閉症をもつ幼児9名を対象に,役割交替模倣,積極的教示行為,自己鏡映像認知に関する課題を実施し,課題間の連関を分析するとともに定型発達児との比較も行った。結果,定型発達児と同様に,発達年齢が2歳頃になると役割交替模倣が可能になる傾向が認められた。役割交替模倣と積極的教示行為の成否には連関性が見られたが,自己鏡映像認知についてはやや異なるパターンが認められた。すなわち,他の2課題が未成立でも自己鏡映像認知のみ成立する対象児が7名中4名見られた。各課題中の行動的・情動的エピソードを分析すると,視線や表情,実験材料の素材感への固執など,定型発達児とは異なる課題への取り組み方が観察された。自閉症においても発達年齢に関連した自他認識の発達が認められるが,定型発達児と同様の評価基準による把握では,対象児の行動レベルと心理レベルのギャップを無視してしまう可能性が示唆された。最後に,自他認識の発達に関わる諸機能間の連関パターンの多様性について議論した。