- 著者
-
渡邊 誠
- 出版者
- 北海道大学大学院教育学研究院
- 雑誌
- 北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
- 巻号頁・発行日
- vol.118, pp.225-234, 2013-06-30
心理臨床家が事例研究から得ているものを明らかすることを試みた。臨床心理学的面接は対人的相互作用の一種であり,通常認識されている以上に幅の広いものと考えられる。そこでは非言語的なものの占める比重が高く,また意識化,言語化の困難な側面が存在する。心理臨床家は関与的観察を行い,被援助者の利益が最大になることを目指す。事例研究の多くが,この複雑な過程の全体を扱おうとする。事例研究に関する先行研究は,主に研究法としての側面に焦点を当て,事例研究により何らかの一般性を抽出することを重視するものが多い。しかし,心理臨床家の実感からすると,事例研究の意義はそれにとどまらない。先行研究は,他の事例へのアプローチに通じる知見の獲得,事例としての質を高める契機などの面を指摘する。筆者はそれに加えて,個人の「絶対性」および実存的側面の実感的理解,そして臨床的姿勢や技法の口伝的伝達機能を仮説として提示し,検討した。