著者
佐野 博之
出版者
北海道大学大学院経済学研究院
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.19-49, 2020-01-17

アリンガムとサンドモによる脱税のモデルは多くの実証研究を誘発し,それらは理論分析の結果のいくつかが現実と乖離していることを明らかにした。特に,理論分析により予測される社会の平均脱税額は現実をはるかに上回ることから,納税者は金銭的動機だけで脱税額を決定していない可能性が示唆された。これに対して,理論モデルは非金銭的動機をもたらす心理費用を納税者の効用関数に組み込んで分析することで現実との乖離を説明しようとし,実験室実験を中心とした実証研究は心理費用が納税者の行動に影響していることを強く示唆してきた。本稿ではまず,アリンガムとサンドモ以降の脱税研究を,理論と実証の両面からサーベイする。最近の脱税研究は,他の納税者の行動の観察を通じて心理費用が変化するような社会的納税者に注目している。このような社会的納税者が存在すると,税情報公開が脱税抑止のための有効な手段になる可能性があるため,税情報公開の効果を調べた実験室実験が数多く行われている。本稿では,これまでの脱税研究とそれらの実験室実験の結果を基に理論モデルを構築し,税情報公開の効果を分析する。さらに,このような理論分析の限界を示す。

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