- 著者
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七戸 秀夫
- 出版者
- 北海道大学大学院文学研究院応用倫理・応用哲学研究教育センター
- 雑誌
- 応用倫理 (ISSN:18830110)
- 巻号頁・発行日
- vol.11, pp.3-15, 2020-05-31
脳疾患に対する他家/異種細胞移植( 他人や動物の細胞が脳内に入り込む) に関して現状を分析し、Derek Parfit 著『理由と人格 非人格性の倫理へ』で言及される〈R 関係〉に基づいて考察を行う。実際に他家/異種細胞が脳内に長期生着しキメラ状態となっている患者が多数存在しているが、人格の同一性については深く検討されてこなかった。我が国では自家細胞を用いた治療が先行してきたが、最近他家細胞に関する臨床研究も開始され、今後増加すると予想される。自家細胞と異なり、他家/異種細胞移植では回復した意識や認知機能は新たに生じたキメラ状態の脳に由来し、そこに〈R 関係〉は存在しない。患者らに漠たる違和感が生じるとすれば、〈R 関係〉を有しないことに(無意識的ながら)根ざしているように思われる。移植によるキメラ状態は、臓器移植や骨髄移植など日常診療としてありふれているが、キメラ状態の臓器の問題は脳とそれ以外で倫理学上の重要性が異なる。