- 著者
-
窪田 幸子
- 出版者
- 北海道大学アイヌ・先住民研究センター
- 雑誌
- アイヌ・先住民研究 (ISSN:24361763)
- 巻号頁・発行日
- vol.1, pp.67-82, 2021-03-01
本稿では、先住民と主流社会の和解の可能性と、その社会的影響をテーマに取り上げ、考察する。カナダとオーストラリアでは、1990年代から和解が大きな社会的焦点となってきた。両国の、植民地の歴史はいずれも18世紀に始まり、先住民が暴力をうけるなどの苦しい経験をし、文化を剥奪され、人口を大きく減らしたことなども共通している。特に、1970年代まで両国で続けられた強制的な子どもの引き離しと、寄宿学校での強制を伴う教育は、先住民の人々に悲劇的な結果をもたらした。その結果、多くの人々が現在もつづくトラウマに苦しんでいるのである。このような事実は、これも両国で1980年代に注目を集めるようになり、国家的な調査がおこなわれ、和解への提言がだされた。そしてさらに、2008年には両国の首相が公式謝罪をおこなっている。このように、両国の和解に向かう経緯は大変類似して見えるのだが、細かくその内容を検討すると、相違点も見えてくる。本稿は、和解に向かう経緯での相違点を指摘し、その違いが与える社会的影響と意味について検討、考察する。それにより、先住民との謝罪、ヒーリング、そして和解の役割を、我々がより深く理解することをめざす。