- 著者
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松田 時彦
- 出版者
- 東京大学地震研究所
- 雑誌
- 東京大学地震研究所彙報 (ISSN:00408972)
- 巻号頁・発行日
- vol.44, no.3, pp.1179-1212, 1967-01-30
1. 地形的にその存在が推定されていた跡津川断層は,少なくとも庄川-神通川の分水嶺から北東へ常願寺川上流までたしかに存在する.長さ60km以上,部分的にゆるくを彎曲するがほぼ直線状で,その平均走向N60°E,断層面の傾斜はほぼ垂直,断層面上の断層条線はほぼ水平である. 2. この断層線に沿って,古生代の飛騨変成岩類から第四紀の河床堆積物までの地層および隆起小起伏面や段丘面などの地形面が変位している.この断層の変位の向きは多少の垂直成分を伴った右ずれである.この断層が示す変位の水平成分は断層の主部で約3km,垂直成分は,概して北側の相対的隆起でその量は1km以下である.すなわち,この断層は右横ずれ活断層である. 3. 第四紀の地層・地形面は古い時代のものほど大きく変位しているが,それ以前に生じた岩石では,時代が古くなっても変位量はそれ以上増加しない.したがって,現在この断層が示す変位量3kmは第三紀後期以後に生じはじめたと考えられる.数万年前に生成した河岸段丘が20m以上変位しているから,最近の数万年間における平均の変位速度は1~数m/1000年位と考えられる. 4. 段丘の変位や谷の喰違い現象は,この断層が最近地質時代に数十m以下を単位とする小刻みのほゞ同方向の変位を繰返してきたことを示している。また,この断層沿いにみられる断層崖などの断層地形は大地震時に生じる地形によく似ている.これらのことから,この断層の約3000mの変位量は地震時の変位の集積と考えられる.安政5年(1857)の飛騨地震はこの断層の最近の活動の1つと思われる. 5. 断層線上での谷の屈曲・転移のむきは概して右であるが,その量はその断層線から谷頭までの距離の大きな谷ほど大きい.このことは,この断層が活発な右ずれ変位を繰返していること,谷の喰違い地形は変位のむき・量を大略反映していること,谷の古さは断層線よりも上流の部分の長さにほゞ対応していること,を示唆している.このような谷の累進的転位現象の有無・程度は,未知の断層の活動性を知る1つの目安になると思われる.