- 著者
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森 正人
- 出版者
- 熊本大学
- 雑誌
- 文学部論叢 (ISSN:03887073)
- 巻号頁・発行日
- vol.105, pp.151-161, 2014-03-17
本論文は事実と虚構という問題意識にかかわって、古代の説話と作り物語、近代の小説における転生譚をめぐり表現の方法を検討するものである。はじめに現代の事実および虚構の概念に相当する古代・中世の言葉に関して一般的な検討を行い、この問題をめぐる作り物語の批評基準および同時代の説話の表現方法を整理し分析する。そのうえで、浜松中納言物語、この物語を典拠としたと作家が明言している「豊饒の海」における転生の証拠と転生者の記憶の問題を取り上げ、その構想と表現方法を読み解く。浜松中納言物語は当時の説話を踏まえながら、その言説に見られる事実性を強調する方法に倣わず、「まことらしさ」を満たせば十分としている。「豊饒の海」は、浜松中納言物語を典拠としたと三島由紀夫自身明言しつつ、そこからさらに古代日本の転生をめぐる説話や浜松中納言物語のプレテクストである竹取物語をも導き入れて構成されている。そのことによって、小説は「典拠」からずらされ、小説自体をも相対化する。