著者
石岡 学
出版者
京都大学大学院人間・環境学研究科
雑誌
人間・環境学 (ISSN:09182829)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.1-12, 2009-12-20

本研究の目的は,戦前期の小学校における職業指導を対象とし,適職決定・就職先決定における論理・実態の分析を通して,そこにいかなる教育的眼差しがあったのか,またその教育的眼差しにはいかなる意味・機能があったのかを明らかにすることである.これは,移行問題が「教育問題」化していく過程で学校がいかなる主体的役割を果たしたのかを解明するうえで,きわめて重要な課題である.第1章では,上記の研究課題の背景・意義について述べた.第2章では,適職決定のプロセスにおける教育的眼差しとその機能について明らかにした.学校において主流となったのは「消極的指導」というあり方であった.その背景としては,求人市場の状況や適性検査への疑義に加え,児童の「可塑性」「弾力性」を重視する「教育的観点」があった.こうした「消極的指導」においては児童の「自発性」や「自己省察」が重視されていた.その理由としては,新教育的主張との連続性に加え,指導者側の責任回避という側面もあった.第3章では,就職先決定のプロセスにおける教育的眼差しとその機能を解明した.小学校が自ら求人開拓・就職斡旋を行うことは原則からの逸脱であり, 「職業精神の涵養」を重視する立場の小学校からは批判された.しかし,職業紹介所の弱体性などの現実的状況ゆえ,それは全否定されえないものであった.このような小学校における求人開拓・就職斡旋という営為は,保護者からの信頼に応えるためなどという理由づけもあって,職業紹介所のような「事務的な処理」とは異なる「教育の仕事」として積極的に肯定されてもいた.第4章では,本研究で明らかとなった知見をまとめ,総合考察を行った.

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