著者
梶原 三恵子
出版者
人間文化研究機構地域研究推進事業「現代インド地域研究」
雑誌
現代インド研究 (ISSN:21859833)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.101-130, 2012-01

本稿は2005年から2009年にかけて起きたアメリカ合衆国カリフォルニア州公立学校教科書の古代インド史記述をめぐる論争と訴訟を検証しその社会的背景を考察する。この事案ではヒンドゥー団体が提出したヒンドゥー至上主義的歴史観にもとづく教科書修正案に研究者たちが学術的観点から異議を唱えて論争となり、最終的に研究者側の見解に沿った教科書が承認された。これを不服として、ヒンドゥー団体側が二件の裁判に訴えた。法廷は研究者の見解に沿った教科書の内容を是認したが、教科書承認プロセスには教育委員会側に不備があったと認定した。特に論点となったのは、古代インドの女性の地位、カースト制度、多神教思想、アーリア人侵入説であった。この教科書問題は、ヒンドゥイズムについてネガティヴなイメージを押し付けられているという一部のインド系市民のアメリカ社会主流派に対する反発が、ヒンドゥー・ナショナリスト関連団体による組織的運動と連動して顕在化したものであり、古代インド史を論争の主題としているが、現代アメリカにおけるインド系市民の社会的・文化的背景から起きた問題であった。

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