- 著者
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仲丸 英起
- 出版者
- 史学研究会 (京都大学大学院文学研究科内)
- 雑誌
- 史林 = THE SHIRIN or the JOURNAL OF HISTORY (ISSN:03869369)
- 巻号頁・発行日
- vol.98, no.6, pp.838-870, 2015-11-30
本稿は、準男爵位を通じて近世イングランド社会における名誉と称号の意義を再検討するものである。一六一一年、王権は財源不足の解消を目的として男爵位とナイト位の間に準男爵位を設置し、その販売を開始した。従来の研究では、初期スチュアート朝期におけるこうした爵位の販売ないし過剰な供給が、名誉の価値を低下させると同時に、社会階層間の移動を容易にしたと論じられてきた。本稿ではこの点を実証的に探求するため、準男爵位被授与者全体の社会層、およびケント・ノーフォーク両州における同称号被授与者の州内における地位を総体的に検討した。その結果、準男爵位を授与された家系の社会層は、たしかに全般的には低下傾向を示していた。その一方で、称号を保有する意味について地域的な差異が存在し、また称号の獲得は従来想定されたほどには社会階層間の流動性を促進していなかったという状況も判明したのである。