- 著者
-
松本 隆
Takashi MATSUMOTO
- 雑誌
- 清泉女子大学人文科学研究所紀要 = BULLETIN OF SEISEN UNIVERSITY RESEARCH INSTITUTE FOR CULTURAL SCIENCE (ISSN:09109234)
- 巻号頁・発行日
- pp.237-254, 2020-03-31
童話「ごんぎつね」の草稿と定稿を中心に、小学校国語教科書に掲載された9種の文章と合わせて計11種類の異本を比較検討した。 視点を示唆する言語指標をもとに分析したところ、(1)草稿と(2)定稿における語りの特徴的な差異として次の3点を確認した。草稿は、(1a)キツネがヒトの村に出て「行く」物語である。(1b)語り手はキツネの側からの「見え」を一定の距離感を保って語り、(1c)伝統的な民話風の語り方がなされる。定稿は、(2a)ヒトの村にキツネが出て「来る」物語である。(2b)語りはヒトからの「見え」を基調とするが、キツネの視線に重ね合わせた語りも交える。(2c)外側と内側から状況に応じた語りを組み合わせ、現代の小説に通じる心理描写がなされる。 教科書は、(3)平成末年の5種と、(4)昭和30~40年代の4種を調査した。(3)平成の教科書は、典拠とする(2)定稿を尊重し、作品をほぼそのまま掲載している。しかし、(2)定稿の特に最終節が、(1)草稿に比べて、視点を示す言語指標に乏しく混乱が生じがちなため、一部の教科書は最終節の段落構成を再編し、読みを誘導している。(4)昭和の教科書は、原典の尊重よりも、視点の整合性や、物語展開の平明さなどの教材性を優先し、改作や圧縮などの加工を施している。