著者
矢嶋 直規
出版者
国際基督教大学キリスト教と文化研究所
雑誌
人文科学研究 (キリスト教と文化) = Humanities: Christianity and Culture (ISSN:24346861)
巻号頁・発行日
no.50, pp.53-77, 2018-12-15

本稿はヒュームに代表される近代英国哲学の道徳哲学がニュートン派の自然神学をめぐる論争から成立した過程を解明することを目的とする。自然神学論争の中心人物にはクラークとバトラーが含まれる。ニュートン派の自然神学を擁護するクラークは、ホッブズ、スピノザ、ライプニッツ、トーランドを批判する論陣を張っていた。またバトラーの経験論的方法による神学と道徳哲学はヒュームやリードにも影響を与えた。本稿の主たる考察対象は初期バトラーの思想形成の舞台となったバトラー= クラーク書簡である。同書簡では神の存在証明における神の遍在と、神の必然的存在についてのクラークの主張へのバトラーの批判が展開されている。神の遍在は空間・時間論を主題とし、神の必然的存在は因果論を主題とする。バトラーは空間・時間を事物の原因とするクラークの議論を批判し、因果を人間の経験に即したものとして扱う可能性を提示している。また神の存在が必然的であるというクラークの主張を批判することで、形而上学的必然性に基づく対象理解を蓋然的信念の問題へと転換している。こうした議論は後期バトラーの経験主義的道徳論及び宗教論に結実するとともに、ヒュームやリードをはじめとするスコットランド啓蒙思想の経験主義的道徳論を準備する思想となった。こうして本稿はバトラーのクラーク批判に用いられる必然性、蓋然性、思惟可能性などの概念が経験的道徳論の基礎概念とされた次第を解明しようとするものである。

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