- 著者
-
千田 嘉博
- 出版者
- 国立歴史民俗博物館
- 雑誌
- 国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
- 巻号頁・発行日
- vol.108, pp.191-217, 2003-10-31
日本における城郭研究は,ようやく基本的な所在や遺跡概要の情報を集積する段階を終え,そうした成果をもとに新しい歴史研究を立ち上げていく新段階に入ったと評価できる。従来の城郭研究は市民研究者によって担われた民間学として,おもに地表面観察をもとにした研究と,行政の研究者による考古学的な研究のそれぞれによって推進された。しかしさまざまな努力にもかかわらず地表面観察と発掘成果を合わせて充分に歴史資料として活かしてきたとはいい難い。城郭跡を資料とした研究を推進するためには,地表面観察から城郭の軍事性を歴史資料化することと,発掘成果から城郭の内部構造を歴史資料化することを一貫して行い,分析することが必要である。そして発掘成果によって改めて中世城郭の実像をとらえ直すことが大切である。そこで本稿では,発掘で内部構造が判明した中・小規模の城郭遺構を軸に,地表面観察,文字史料をも合わせた学融合的検討を行った。検討の対象は,築城祭祀,塁線構築技法,陣城,包囲陣,中小規模の山城の内部構成,兵舎など多岐におよぶ。いずれも城郭跡から歴史を読み取っていくのに基本になる視点といえる。地表面観察でわかる情報から発掘成果まで学融合的に一貫して検討することで,城郭跡のもつ資料性をさらに高めることができる。本稿はそうした新しい研究方向を指向した試みである。