- 著者
-
井上 智勝
- 出版者
- 国立歴史民俗博物館
- 雑誌
- 国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
- 巻号頁・発行日
- vol.148, pp.357-378, 2008-12-25
本稿では、従来個別の地域に即して蓄積されてきた神職組織研究を相互比較することによって、近世の神職組織の存在形態とその特質を解明した。対象は、これまでの研究が触頭―触下という関係に注目して集積されてきた関係から、触頭などの長を戴く神職組織に設定している。検討対象としては、松前から九州までの事例を取り上げた。かかる神職組織は、領国地域・非領国地域を問わず、各地に多数存在し、多様な展開を見せていた。非領国地域の組織は、領主権力から比較的自由に存在することが可能で、前代以来の自律性を残しつつ存在した。比較的広い封地を有する領主の神職編成には、領主権力によって触頭が設定される場合と、前代以来の地域有力社が保持する既存組織が利用される場合があった。前者の場合でも下部組織として郡や郷などにおいて展開してきた在地の神職組織に依拠することは多かった。また、領主権力によって構築された神職組織は、触頭の奉仕社と同格の神社神職からの強い抵抗を誘発することがあり、当該地域権力が消失あるいは縮小した場合には解体する方向へ進むこともあった。後者においては、在地からの抵抗は比較的少なく、反対に領主権力が地域有力社の自律的な在り方に制限を加えられることもあった。神職組織の編成原理も単に触頭―触下という論理ではなく、官位、称号、参勤など、いくつかの論理によってその関係を正当化していた。このうち参勤という神職集団の形成形態は、やや古い形態を残すものと考えられる。また、本所はかかる組織に依拠して諸国の神職支配を行っていたが、既存の組織や秩序からの脱却を図る神職の動向を助長する役割を果たす場合もあった。