著者
寺本 剛
出版者
中央大学人文科学研究所
雑誌
人文研紀要 (ISSN:02873877)
巻号頁・発行日
vol.78, pp.237-259, 2014-09-16

デレク・パーフィットは『理由と人格』においてある思考実験を提示している。そこでは,地球にいる人物の全ての情報をコピーし,その情報に基づいて火星に新たなレプリカを作成した場合,それは地球にいた人物の火星への移動と見なされるべきか,それとも地球にいた人物は死に,火星でその人物そっくりの別人が生きはじめると考えるべきなのか,ということが問題とされている。通常私たちは以上の事態を「私の死」と見なしがちであるが,これに対してパーフィットは火星にレプリカが生まれることは,私が普通に生き続けるのと同じくらいよいことだと主張する。この主張の正否を明らかにするために,小論ではパーフィットの議論を必要な範囲で跡づけ,それに対して批判的に検討を加える。その過程で「私は自分自身が何であると信じた方がよいのか」という問いについて一定の見通しをつけるよう試みる。

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