著者
隅田 陽介
出版者
日本比較法研究所
雑誌
比較法雑誌 (ISSN:00104116)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.171-201, 2015-06-30

近時のアメリカ合衆国では,インターネットの普及に合わせて,インターネットを通して児童ポルノがダウンロードされ,所持されるに至った場合にも,その児童ポルノの被写体となった被害者に対して必要的被害弁償(18 U.S.C.§2259参照)は認められるのかどうかということが注目を集めている。これは,§2259(b)(3)(F)のみに規定されている「犯罪の近接した結果として(as a proximate result of the offense)」という文言が,その前にある(A)から(E)にも適用されるのかどうかという近接原因の要件の解釈に起因するものである。そして,他にも重要であると思われるのが,被害弁償額の算出に関わる問題であり,さらには,児童ポルノ所持の被害者に対する救済の在り方に関する問題である。前者については,第一の壁である近接原因の要件は満たされると判断されても,当該被告人が引き起こした特定の被害を確定して,弁償額を算出することが困難であるという理由で,裁判所は被害弁償命令の発出に消極的になっているなどと指摘されることがあり,後者についても,児童ポルノ所持の被害者に対しては,被害弁償よりも別の仕組みによる救済・補償の方が効果的であるともいわれていることを考えると,これらの問題の重要性は改めて指摘することもないであろう。 本稿は,児童ポルノの所持と被害弁償の問題について,①どのような形で被害弁償額を算出するか,そして,②どのような形で救済を行うことが児童ポルノ所持の被害者にとっては効果的なのかといった観点から考えてみたものである。 本号では,まず,一において,現在の必要的被害弁償に関連して指摘されている問題を,制度の仕組み・手続に関連するものと,被害弁償額及びその算出に関連するものという二つの視点から整理した。次に,二において,被害弁償額の具体的な算出方法に触れ,ここでは,請求額全額の認定・定額制・比例分割制という三つを中心に検討した。 なお,本文の中では,2014年4月に合衆国最高裁判所から出されたParoline v. United Statesや,この判決を受けて,議会に提出された「2014年児童ポルノの被害者Amy及びVickyに対する被害者弁償改善法(Amy and Vicky Child Pornography Victim Restitution Improvement Act of 2014)」案についても,関連する範囲で触れている。

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