著者
井上 康昭 岡部 俊
出版者
北海道農業試験場
雑誌
北海道農業試験場研究報告 (ISSN:03675955)
巻号頁・発行日
no.143, pp.p149-157, 1985-03

単交配一代雑種品種への急速な移行に伴い,その親である自殖系統の効率的育成方法の確立が待たれている。本研究は,単交配一代雑種品種の採種性向上のために,自殖の早期世代での打ち切りの可能性と集団改良の効果について調べるために実施された。日本在来自然受粉品種「塩ノ岐-1」,中国複交配一代雑種品種「双跃808号」,米国合成品種「BS5」,及び米国合成品種で改良集団である「BS13」の四つの起源集団を用いて自殖を開始し,それぞれの起源集団のS0からS4~S6までについて,1系統当たり5個体の稈長を測定し,系統平均値,系統平均値間分散及び系統内分散を算出した。それによって,系統平均値間分散と系統内分散の相対的大きさ,及び基準に用いた高次の自殖系統内分散に対する供試系統内分散の比について,自殖世代による推移を調べ,整一性の面から自殖打ち切り可能世代を検討した。更に,集団改良の効果を調べるため,自殖弱勢の自殖世代による推移について起源集団による違いを比較検討した。得られた結果は次のとおりである。(1)系統平均値間分散と系統内分散の比は,S1で2.79~8.88,S2で7.68~13.12,S3以降更に増大した。また,系統内分散はS2においてすでに統計的に有意ではなかった。このことから,S2以降の系統内選抜の効果は非常に小さいことが推測された。(2)供試系統の系統内分散を基準の高次の自殖系統内分散と比較した場合,S2で1.6,S3で1.1,S4以降は1.0以下であった。このことから,整一性の面で,S3においてすでに高次の自殖系統とほとんど差がないことがわかった。(3)自殖弱勢の程度は,より改良が進んでいる集団ほど小さい傾向がみられ,S4のS0に対する比率は自殖弱勢の最も大きい「双跃808号」で63%,最も小さい「BS13」で76%であった。(4)S1における自殖弱勢の程度によって,全体の自殖弱勢の程度を推測することは可能でなかった。以上のことから結論として,単交配一代雑種のための親系統として,少なくともS3系統を利用することは実用上問題がなく,これによって採種性を高めることができ,さらに育種の回転を早めることが可能であると考えられた。また,集団改良によって優良な遺伝子を集積することにより自殖弱勢を小さくすることが可能であり,これによってもまた採種性を向上させることができると考えられた。