- 著者
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吉川 博昭
西部 伸一
酒井 大輔
今西 宏和
大野 聖加
小林 克江
北村 晶
- 出版者
- 埼玉医科大学 医学会
- 雑誌
- 埼玉医科大学雑誌 (ISSN:03855074)
- 巻号頁・発行日
- vol.45, no.1, pp.1-11, 2018 (Released:2018-10-25)
- 参考文献数
- 18
【目的】脳神経外科術後早期に,不安定な循環動態や疾患の重症度とは関連のない高乳酸血症を経験することがある.脳神経外科予定手術患者を対象とし,術後早期の高乳酸血症の発症要因と術後合併症との関連について後方視的に検討した.
【対象と方法】予定脳神経外科手術患者のうち,麻酔導入後および手術終了直前に,動脈血ガス分析で乳酸値を測定した症例を対象とした.手術終了直前の乳酸値が2 mmol/L以上を術後早期高乳酸血症と定義し,高乳酸血症群と正常乳酸値群に分類した.患者背景,バイタルサイン,術前合併症と術前投与薬剤,手術術式,脳腫瘍の悪性度と大きさ,手術時間,出血量,動脈血ガス分析結果,周術期カテコラミン投与,集中治療室滞在日数,術後人工呼吸,術後合併症について群間で比較し,多変量ロジスティック回帰分析を行った.
【結果】対象患者 225名のうち 49名に術後早期高乳酸血症を認めた.高乳酸血症群では,脳腫瘍手術患者の割合,手術時間,術前乳酸値,出血量が高値であった(P < 0.05).多変量解析から,術前の高乳酸血症(オッズ比 27.83)と脳腫瘍手術(オッズ比 4.806)が術後早期高乳酸血症の発症要因として考えられた.脳腫瘍手術患者 89名のうち38名が高乳酸血症群であった.高乳酸血症群では正常乳酸値群に比較して,腫瘍が有意に大きかった(1016 mm² [四分位範囲:545,1951 mm²] vs. 780 mm² [四分位範囲:3 22,1107 mm²])(P= 0.02).また,2日以上集中治療室に滞在した患者が,術後早期高乳酸血症群で は正常乳酸値群よりも多かった(31% vs. 16%, P<0.05).
【結論】予定脳神経外科手術患者の術後早期高乳酸血症の発症要因は,術前からの高乳酸血症と脳腫瘍手術であった.術後早期高乳酸血症患者は,集中治療室滞在時間が長くなる可能性がある.