著者
斉藤 博
出版者
埼玉医科大学
雑誌
埼玉医科大学進学課程紀要 (ISSN:0287377X)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.15-25, 2000-03-31
被引用文献数
3

アテネの疫病は, トゥキュディデスの『戦史』2巻には記載されているが, 『ヒポクラテス全集』(『全集』)には記載されていない.アテネの疫病は, 出血性, 発熱性ウイルス性感染症であるマールブルグ病, エボラ熱, 或いは, その類似疾患と考えられる.『戦史』と『全集』の色彩表現は関連性があったと推測される.『戦史』の3巻以降には色彩表現は殆ど認められないが, トゥキュディデスが疫病に罹り, その合併症であるブドウ膜炎による後天性色覚異常になったためと推測される.ヒポクラテスの生年をBC 460年頃とすると, アテネの疫病はBC 430年であるから, 彼は当時30歳代と推測される.『全集』にはアテネの疫病の記載がないが, ヒポクラテスがアテネの疫病に関与しなかったか, 或いは, 後に記載が脱落したかは不明である.
著者
斉藤 博
出版者
埼玉医科大学
雑誌
埼玉医科大学医学基礎部門紀要 (ISSN:0287377X)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.61-75, 2004-03-31

ヒポクラテスの歳言"人生は短く,術の道は長い"は,セネカ,アリストテレス,シェクスピア,ディケンズ,ゲーテなど多くの著者に引用されている.ゲーテファウスト初稿では,ワーグナーの台詞で,"術のみちは長く,人生は短い"と逆に引用されている.私は,古代ギリシアでの"術"の意味を検討し,ファウストの台詞とファウスト初稿での台詞の差異を比較した.ゲーテはファウスト初稿では,術を生命より強調するために,箴言の順序を変え,さらに,箴言の終わりに感嘆符(!)を加えた.彼はファウスト初稿をファウストに書き換えた時に,ファウストでは,箴言のはじめの"ああ"を"ああ!"に変更し,行末の感嘆符を削除した.
著者
仲地 豊 金沢 徹文
出版者
埼玉医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

当該年度は主として、このかんにリファレンス情報となる各種データおよび全ゲノム解析ツールのアップデートがあったためこれらへの対応と、全ゲノムシーケンス後の2次解析環境の整備をおこなった。全ゲノム解析に必要な参照ゲノム配列を最新のhg38/GRCh38およびJRGv2に、また解析ツールをGATK3/4系にアップデートし、日本人変異データベースに3.5KJPNを採用するなど、解析環境の再構築と検証をおこない、また既存サンプルを用いた再解析もおこなった。これまで既報の変異・多型は遺伝子間領域やイントロン領域でおおく報告されており、全エクソーム解析では同定がむずかしかったが、全ゲノム解析によってこれらの解析・検証が可能なことを確認した。既存論文でみられていた変異・多型が日本人当事者では同定されなかったことから、人類集団間での差異の存在が示唆された。配列解析などから遺伝子上の多型・変異だけでなく、性ステロイドホルモン受容体の認識配列や他転写調節因子の認識配列上にみられる多型・変異についても考察をおこなった。今後は当事者ゲノムの解析に加えて、モデル動物などを利用して脳の性分化時期に機能する遺伝子群の情報を拡充する必要がある。一部の進捗については2017年度生命科学系学会合同年次大会(ConBio2017)にてポスター発表(2017年12月6日、神戸、1P-1186)、およびGID(性同一性障害)学会第20回研究大会にて口頭発表(2018年3月24日、東京、一般演題2-6)をおこなった。
著者
杉山 智江
出版者
埼玉医科大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

「レイキ=霊気」は、臼井甕男(1865-1926)が開発し、海外に渡りReikiとして世界に広められたエネルギー療法の一つである。「レイキ」のがん患者への活用に関する国内外の文献検討を行った。国内(1996-2016)で「レイキ」のキーワードがあったのは36件であり、医療での活用や効果に関する記述は10件であった。国外(1961-2018)では「Reiki」「Cancer」をキーワードとし、がん患者に関する20件をレビューした。文献検討4件、RCT6件、アメリカ他3か国で研究されていた。医療機関をフィールドとした研究は12件であったが、Reikiの効果は明らかにされていなかった。
著者
林崎 義映
出版者
埼玉医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

法医学実務における骨の鑑定は、現在もなお重要であり続けている。身元特定の第一歩としての性別判定は、その確定にDNA検査が必要であるが、骨の保存状態によってはDNA検査ができない場合があり、形態学的な判定の精度を高める必要がある。一般にDNAを用いない性別判定には、形態観察法と数値計測による方法とがある。前者は、熟練者の的中率は高いものの、客観性・再現性に問題が生じる。後者は全体や特定の部位の大きさを計測する方法がほとんどで、骨の複雑な形状を十分に反映しておらず、熟練者の形態観察に精度で劣るものが多い。男性の骨が大きく、女性の骨が相対的に小さいといった傾向がそのまま判断基準となり、中間的な大きさの骨を男女それぞれに正確に分類することはうまくいっていないものが多い。本研究の目的は人骨に対してフーリエ解析を実施することにより、客観的かつ骨形態を十分に反映した高精度の性別判定法を確立することである。フーリエ解析は画像解析の分野で広く用いられているが、その特性は複雑な骨形態の解析にもよく適している。また、本研究では死後CT画像を対象としてフーリエ解析を実施しているが、実際の骨を写真撮影などして二次元情報に落とし込むよりも、再現性・証拠保全性・易作業性といった点で優れている。頭蓋骨に関して鼻根部から冠状縫合までの正中線の形状(スブナジオン-ブレグマ間)をち抽出し、解析したところ、肉眼的な形態観察法と同等程度の的中率(83%~90%)が得られ、国際学会で報告した。最終年度には、実務に即した運用を検討し、誤判定率(10~17%)をより減らすため、男女2群に分けるのではなく、判断保留群を加えた3群に分けることにした。その結果、誤判定率を1%まで下げることができたが、同時に74%の判断保留が生じた。判断基準の設定にはなお検討を要する。
著者
松下 祥 下条 直樹 中込 一之 佐々木 巧
出版者
埼玉医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

我々が開発したTh2/17アジュバント活性の評価方法を用いて以下を明らかにした。1)母乳のTh2アジュバント活性が高い児はアトピー性皮膚炎を発症しやすく、これは母乳中のCoenzyme-Aによる。2)ドパミンはIL-6依存性にTh17アジュバント活性を有し、受容体アンタゴニストはマウスRAモデルや好中球性気道炎症モデルを軽快させる。
著者
仲地 豊 金沢 徹文 康 純 岡崎 康司
出版者
埼玉医科大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究課題は性同一性障害(GID)当事者ゲノムの全遺伝子のうち、エクソン領域を対象とした全エクソーム解析による研究計画であった。しかし海外の研究グループから性同一性障害と関連が示唆されるエクソン領域以外の多型が報告された。当初予定していた全エクソーム解析ではエクソン領域近傍100bp程度の範囲までしか変異・多型を検出することができないため、手法を当初の計画から変更し全ゲノム解析に移行して再解析をする必要があった。予備解析でイントロン領域や遺伝子間領域にみられる反復配列多型の検出も全ゲノム解析で十分可能であったため、手法を変更して10例のGID当事者サンプルについて全ゲノム解析をおこなった。
著者
赤間 啓一
出版者
埼玉医科大学
雑誌
埼玉医科大学医学基礎部門紀要 (ISSN:13499440)
巻号頁・発行日
no.10, pp.29-39, 2004

我々の3+1次元時空は,高次元時空のソリトンであるとし,その量子的ゆらぎから,我々の時空の重力場と物質の場の理論を誘導する.近年,我々の住んでいる3+1次元時空は,高次元時空の中に力学的に埋め込まれた3+1次元の超曲面であるとする「膜世界(braneworld)」の考え方が爆発的な注目を集めている.このような考えは,自然界の理解において,大きな可能性を拓くものであり,実は,古くから着実に研究されてきた重要テーマでもある.本稿では,はじめに,埋め込まれた時空から膜世界への研究の流れを概観し,次に,膜世界に関する筆者の一連の研究を概括し,筆者の考える膜世界の全体像を呈示したい.
著者
廣澤 成美
出版者
埼玉医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究ではフェニトロチオンが内分泌臓器に及ぼす影響を調査するために雄若齢ラットを用いて曝露実験を行った。その結果、フェニトロチオン30mg/kg/day投与群の副腎と脳下垂体重量の増加がみられた。またフェニトロチオン投与群ではテストステロン及びACTHの血中濃度が高くなることが示された。脳下垂体と副腎におけるプロテオーム解析を遂行し、コントロール群と比較し投与群において発現量が増減した蛋白を同定することができた。
著者
玉置 豊美 赤羽 明 高橋 浩 森下 貴司 滝沢 俊治 所澤 潤
出版者
埼玉医科大学
雑誌
埼玉医科大学医学基礎部門紀要 (ISSN:0287377X)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.1-16, 2004-03-31

我々は群馬大学附属図書館本館書庫並びに特殊資料室に,未登録明治期教科書が大量に保管されていることを知った.蔵書の多くは旧群馬県師範学校,群馬県女子師範学校から継承されたものであった.本稿ではその中から我々による目録化がなされた理系和装本276冊を取り上げる.まず,我々による目録化に至る経緯を述べる.次いで目録作製の方針・細則を述べ,目録を掲載する.さらに,目録中の初所蔵を示す蔵書印に着目し,図書の由来ともなるその由来について考察する.
著者
原 正昭 高田 綾 斎藤 一之 齋藤 一之 高田 綾
出版者
埼玉医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

テープに付着させた指紋試料からのShort Tandem Repeat(STR)解析を行ったところ、1個の指紋付着試料(約200mm^2大)からでも十分にSTR型判定が可能であることが判明した。次に、メンブレン付きスライドガラスに指紋を付着後、レーザーマイクロダイゼクション装置を用いて指紋の隆線部分を採取し、微量な隆線試料からのSTR型解析が可能であるか否かについて検討したところ、10×6mm大で12~6ローカス、7×4mm大で7~2ローカス、7×2mm大で4~1ローカスのSTR型が判定された。
著者
原 正昭 永井 淳 田村 明敬 山本 敏充 廣重 優二 小川 久恵 引土 知幸 梅田 光夫 川尻 由美 中山 幸治 鈴木 廣一 髙田 綾 石井 晃
出版者
埼玉医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

犯罪現場で時々みられる吸血蚊から、個人特定が可能かどうか、また、吸血後の経過時間を推定可能かどうかを目的として行った。2種類の蚊を、被検者計7名に吸血させ、一定時間経過後、殺虫した蚊からDNA抽出し、各抽出DNAを、3種類の増幅長の異なる増幅産物で定量を行った。また、15座位のSTR及びアメロゲニンの型判定を行った。その結果、型判定は吸血後2日経過まで可能で、ピーク高比などから総合的に半日単位の経過時間推定が可能であることが示唆された。17座位のY-STRの型判定結果も同様であった。今後、改良すれば、より精度の高い吸血後経過時間推定が可能であると考えられた。成果の一部は、英文誌に受理された。
著者
原 佑樹 名川 恵太 井上 勉 小澤 栄人
出版者
埼玉医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2023-04-01

本研究ではまず当院過去10年間の両側腎臓MRIの症例を用いて3D自動セグメンテーションシステムの構築を目指す。次にこれらの過去画像群および自動化ツールで得られたsegmentation dataのセットを用いて、texture解析と深層学習を用いたCKD患者の腎機能予測モデルの構築を目指す。さらに深層学習(3D CNN)を用いた腎機能予測モデルの構築も行うことで、腎機能予後評価のさらなる向上を狙う。低侵襲なMRI検査およびtexture解析や機械・深層学習といった手法により、CKDの早期診断やリスク予測ができれば、その予防や症状改善に貢献できる可能性がある。
著者
赤塚 俊隆 松浦 善治 神吉 泰三郎
出版者
埼玉医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

我々はC型肝炎ウイルス(HCV)の感染性RNAを接種して単一のウイルスによる感染実験に成功したチンパンジー、1535と1536のPBLをEBウイルス(EBV)でトランスフォームすることにより、HCV特異的IgG抗体産生B細胞クローンが感染後どの時点で出現するかを検討した。同時に血清のIgG抗体価も測定し比較した。その結果2頭のチンプともに、ALTの上昇がみられた20週には血中にC抗原に対するIgG抗体が出現したが、E1、E2抗体の出現は殆ど認められず、1536においてのみ45週以降になってE2抗体が出現、10週にわたる抗体価の上昇を認めた。しかしEBV-transformationの結果では、C、E1、E2いずれの抗原に対するIgG抗体産生B細胞も35週の時点で同頻度に認められた。これは54週になっても同じであった。EBV-transformationでは完全に成熟した抗体産生より分化段階の低い細胞が検出されると考えられるので、我々の結果はウイルス中和に関与すると思われるE1、E2抗体を産生するB細胞の分化が、何らかの機序により最終段階の一つ手前で押さえられていることを示していた。平成12年度は、1536において、感染後45週というかなり遅い時期に、ウイルスのE2タンパクの1つのアミノ酸に変異を生じたウイルスが出現し、その時期に一致して抗E2抗体の上昇が見られたので、そのアミノ酸変異を中心としたペプチドを合成し、ヘルパーT細胞の反応を検討した。変異アミノ酸配列のペプチドに対するヘルパーT細胞の反応が生じてE2抗体産生が引き起こされたという仮説を立てたが、結果は正常ペプチドも変異ペプチドも陰性でありその説明は成り立たなかった。更に検討を加えた結果、この45週という時期には,E2のみならず、C抗原に対してもIgM反応が急激に上昇していることが分かった。C抗体はIgGが感染初期にすでに出現上昇しており、これに遅れてIgMが出現するという、通常の免疫反応とは極めて異なる抗体反応パターンを示していた。この事は変異ウイルスが出現した時期に一致して宿主の免疫系にも新たな刺激が生じ、CとE2に対するIgM抗体産生が起こったことを示唆している。変異ウイルス自体には新たな抗原性はない可能性がので、変異ウイルスの挙動か何かにそれ以前のウイルスとは違うものがあって、それが免疫系の抗原認識に影響を与えたことが考えられる。その後我々は、この2頭のチンパンジーの感染後8週のB細胞がHCV抗原を発現していることをみいだした(未発表)。現在この抗原発現の詳細を検討しており、次に感染後期でのB細胞におけるそれと違いがないかを検討する予定である。
著者
江村 隆起 古村 眞 渡辺 栄一郎 尾花 和子 佐藤 毅
出版者
埼玉医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

無用の長物として扱われてきた虫垂は、安易に切除される傾向にあったが、虫垂の免疫学的な重要性が報告され、虫垂を失うリスクが知られるようになった。そこで、虫垂炎を予防し、虫垂を残していくことが重要である。近年、急性虫垂炎の虫垂内は、口腔内細菌であるフゾバクテリウム属菌が優勢であることが報告された。腸管内へ移行し難い口腔内細菌が、虫垂細菌叢で優性となる原因の究明が、虫垂炎の病態解明につながる可能性がある。そこで、口腔内細菌叢と虫垂炎の関連について検討し、口腔内環境改善による虫垂炎の予防法について検討する。
著者
武田 文和(講演)
出版者
埼玉医科大学
雑誌
埼玉医科大学雑誌 (ISSN:03855074)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.189-190, 1999-04
著者
若山 俊隆 丸山 直子 加藤 綾子 水谷 康弘 東口 武史
出版者
埼玉医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

患者によって異なる外耳道の3Dマップを個別に取得し,最適化された音を鼓膜に伝えることができれば,うつ病や認知症の抑制に貢献できる.研究対象となる外耳道の緩やかなS字を描くような湾曲した細い管の形状を計測する方法は,医療分野にとどまらず産業分野においても必要不可欠な医術であるが,これを達成する方法は確立されていない.このような研究背景から,本研究では三次元音響解析からハウリングを起こしにくい発振器の最適な位置と角度を明らかにする外耳道完全3Dマップを作成するために,極細径の新規な円管ビーム光源と三次元動作解析により,湾曲した外耳道を形状計測できる光スキャナの開発を目的にしている.本研究では,従来の樹脂を用いた外耳道の型取りをなくし,光計測で瞬時に型取りするパラダイムシフトを起こす.このような研究目的を達成するために,本年度は細径の内管の内壁の三次元形状を計測するための方法を提案し,直径3 mmの細径光スキャナを開発した.本手法によって従来までは困難であった外耳道の形状計測を可能とした.さらに本方法に多関節アームを導入することで湾曲した外耳道の3Dマップを達成した.実験サンプルには外耳道模型を購入し、形状計測を行った.得られた光スキャナの結果をマイクロフォーカスX線CTの結果と比較すると計測エリア全体で0.5 mm以下の一致となった.通常、マイクロフォーカスX線CTでは被爆がある.また、シリコンなどの印象材では外耳道を傷つける恐れもあるが、本手法は非侵襲かつ非接触にこれらを計測することを実現した.その一方で,提案した方法の問題点も山積していることも明らかになった.次年度以降はこれらの問題点を突破することを目指す.それと共に取得された外耳道の形状から補聴器への応用を考えていく.