著者
岩下 俊治 Shunji IWASHITA 明星大学人文学部英語英文学科
出版者
明星大学
雑誌
明星大学研究紀要 人文学部 (ISSN:03881318)
巻号頁・発行日
no.41, pp.111-121, 2005-03

人間の会話は言葉による伝達によってなされるが、実際には、言葉によって意味されること以外のことも伝達される。例えば、次の発話について考えてみる。A:It's hot, isn't it?(今日は暑いですね。)これは単に知り合いに会って、会話を始める挨拶として発話されたという場合であれば、余り重要な意味はない。いきなり会話を始めるのは唐突なので、前置きのようなものとして発話されたと解釈される。しかし、場合によっては、「暑いからエアコンのスイッチを入れてほしい。」とか、「暑いから何か冷たい飲み物がほしい。」とか、「この飲み物熱くて飲めないよ。」といった意味の伝達と解釈できる場合もある。人間は、相手の発話をその場の状況や文脈に応じて、いつも最もふさわしく解釈しようとする。それによって自然な会話の流れが生まれる。この「最もふさわしく解釈する」にはどのような原則が関係しているのか。Sperber&Wilson(19952)が提唱している関連性理論が、この問題に対する一つの答えを与えている。本研究は、この関連性理論の有効性にっいて検証する。結論からいえば、関連性理論は、発話の解釈という点では、有効である。また、関連性理論が主張する、「人間は最小の労力で最大の認知効果を得ようとする」という原則は、Chomsky(1995)に代表される生成文法が提唱する普遍文法の原則であるEconomyPrinciple(経済性の原則)と一致すると考えられる。即ち、人間の言語活動を含む認知過程(Cognitiveprocess)は、この経済性の原則に従っていると考えられる。本研究を通して以上のようなことが明らかになった。