著者
津野田 晃大 初田 隆
出版者
大学美術教育学会
雑誌
美術教育学研究 (ISSN:09115722)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.273-280, 2016 (Released:2017-03-31)
参考文献数
8

本研究では「古筆」の臨書体験を中心に据えた文字鑑賞プログラムを作成し,試行実践を通して学習効果の検証及び意義の確認を行うものである。古筆には原初的な手書き文字の持つリズムや気韻が秘められており,手書き文字の美しさを歴史的な視座から感じ取ることができる教材である。また学習者の意識変容を促すために,単に文字を観るだけではなく多感覚を統合させる多面的なアプローチを取り入れたプログラム構成を行った。ワークショップの受講者は教員養成大学の学生・院生とし,文字に対する意識の変容とともに将来の教員としての視座形成がいかに図れたかを考察した。受講者の活動状況やプレ・ポストテストの記述内容からは文字を芸術として鑑賞対象と捉える視座の獲得と,文字意識の深化・拡張,教材化への志向を確認することができ,今後の実践に向けた展望を得ることができた。
著者
菖蒲澤 侑
出版者
大学美術教育学会
雑誌
美術教育学研究 (ISSN:09115722)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.233-240, 2016 (Released:2017-03-31)
参考文献数
19

現在,各美術館において教育普及活動が充実し,過渡期を迎えている。美術館における教育普及活動の変遷と展望について,本論では,美術館の運営背景にある社会教育概念を整理した上で,美術館の教育普及機能の変遷をたどると共に,今後の展開を探る。法文及び成立経緯の精査により,社会教育とは,教育活動の構成員全員が教育者であると共に学習者となり,その教育活動により社会が更新されることを期待されていることが分かる。更に,美術館の教育普及機能の変遷をたどると,近代美術の普及から美術館利用の普及へと内容が変化し,また,事物としての美術から現象としての美術を扱う変化を見せている。このことから,活動の主体を徐々に利用者に移していることが分かる。以上より,今後の美術館の教育普及活動について,活動の主体を利用者に移行することにより,社会教育の成立が期待できることを示す。