著者
岡田 匡史
出版者
大学美術教育学会
雑誌
美術教育学研究 (ISSN:24332038)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.113-120, 2019 (Released:2020-03-31)
参考文献数
55

本稿は連稿後篇となる。前稿でレンブラント「夜警」読解に際し,7段階・15項目で成る鑑賞学習プログラムを提起し,第1・3段階(観察,解釈)を論じたが,本稿では第2・4・7段階(形式的分析,知識補塡[情報提供],補充課題)を扱った。第5・6段階(再解釈,判断&評価)は別の機会に譲る。第2段階で油絵の具の賦彩特性と画面構成上の特質を挙げ,形式的状態に主題把握に通ずる道筋が潜む点に言及した。第4段階の主要論題は,美術史的背景,図像学的特徴,エピソードとした。美術史学習の進め方に関し,藤井聡子・梶木尚美による歴史学習と絵画鑑賞を連結する教科横断型授業実践を参照した。図像学的観点から「夜警」を解す試みや,補助的だが時に主題に直結しもするエピソードの機能も論じた。第7段階(補充課題)では,東西比較,絵を聴く,自画像捜し,ロールプレイ,脱整列型記念写真撮影を概説し,本稿を締め括った。
著者
岡田 匡史 Okada Masashi
出版者
慶應義塾大学
巻号頁・発行日
2010-09

学位授与大学: 慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科 2010年度 博士(システムエンジニアリング学) 甲第3377号 学位授与年月日: 2010年9月21日
著者
岡田 匡史
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.31, pp.139-150, 2010-03-20 (Released:2017-06-12)

筆者は,A.アレナスが卓抜たる対話形成スキルをもって行い,日本では上野行一が主導的に理論整備し普及を図る,対話型鑑賞の妥当性の及びうる範囲・限界を検討し,その射程を越えた部分をカバーしうる指導形態として読解的鑑賞を考える。本稿目的は,この読解的鑑賞のための準備的論察を固めることである。メソッドを継ぐ1人,岡本芳枝の識見を参照する所から論を起こし,次いで作品鑑賞の年齢段階・習熟差を,A.ハウゼンやM.パーソンズの発達説を振り返り,実践者の考えも踏まえることで確かめる。その結果,創話主体の対話型鑑賞は,内省優位で言語能力・情報活用力を培うべき中学校段階では課題多き点が明らかとなる。網・螺旋状構造の対話型鑑賞と対照的な,E.フェルドマンの階梯型批評メソッドも吟味し,中学生を主対象とする読解的鑑賞(別稿準備中)の必要性を説く。
著者
岡田 匡史
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.135-149, 2009

本稿では,西洋=異文化を基本観点とし,旧版より新版が引き継ぐ,『中学校学習指導要領』第6節美術B鑑賞(1)ウの「美術を通した国際理解」を主たる根拠に,絵を指導媒体とした西洋理解の在り方を考える。生活形態の欧米化,衣食住の均質化(グローバリゼーション)が進むと,何となし西洋(The West)が解った気になるが,深層は掴みがたい。深層とは,キリスト教的精神性(メンタリティ)(信仰態度に換言可),つまり"Christianity"で,依然異文化である(米国留学体験[1982-85年]でそう痛感した)。そこで,キリスト教美術にかつて求められた教化的働きを教育機能の一種と捉え,「キリスト教美術(殊に宗教画)による西洋(異文化)理解」を提起することが,本稿眼目となる。リップハルト男爵説によりレオナルド帰属がほぼ確定した,瑞々しさ溢れる初期傑作,「受胎告知」を鑑賞対象とし,テキスト(宗教画ゆえ新・旧約聖書)とキリスト教図像学を両輪とした諸解釈を調べ,筆者自身の解釈も示しながら,教材研究を構築。そこを経,フェルドマン提起の4段階批評方式に則る"Instructional Resources"を参考に,指導範例を述べる。
著者
福岡 進 岡田 匡史 亀山 顕太郎 石井 壮郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0926, 2014 (Released:2014-05-09)

【目的】近年,野球選手にフィジカルチェックを行い,早期に予防策を講ずる取り組みが広く行われるようになってきた。しかし,実際に障害予防に対する選手の意識を高めて有病率を低下させるには数多くの課題がある。その中で特に重要だと考える4つの課題を列挙する。1.障害に対する選手の予防意識を十分に高められないため,予防効果があがらない。2.フィジカルチェックにおいて,どの項目を優先的に調べていくべきかという基準が曖昧である。3.フィジカルチェック後,選手へフィードバックするまでに時間がかかる。4.データを取得してもそれを蓄積していないため,良質なエビデンスを構築できない。こうした課題を解決するためには新しいシステムの開発が必要である。そこで本研究の目的は,必要最低限のフィジカルチェックを行うことにより,投球障害肩・肘に関する近未来の発症確率を予測し,リアルタイムに選手にフィードバックを行うことで選手の予防意識を向上させるシステムを開発することとした。【方法】高校野球部員30名に対し無症候期にフィジカルチェックを行い,その後の半年間にどの選手が投球障害肩・肘を発症したかを1週間毎に前向きに調査した。フィジカルチェックデータと発症データをロジスティック回帰分析することで発症に有意に関連する危険因子を同定し,それらから発症確率を予測する回帰式を算出した。算出した回帰式にフィジカルチェックデータを代入することにより,選手一人一人の近未来の発症確率を予測するシステムを構築した。その後次シーズンに本システムを活用して,選手一人一人に発症確率と危険因子を伝え,予防策を指導した後,アンケートにて予防意識に関する調査を行った。【説明と同意】選手にはヘルシンキ宣言に基づき研究の主旨を説明し同意を得た上で研究を行った。また,「参加の自由意志」を説明し,協力・同意を得られなかったとしても,不利益は生じないことを記載し文書にて配布した。【結果】調査期間中に33%(10/30例)の選手が投球障害肩・肘を発症した。発症に有意に関連性のあった項目は挙上位外旋角度,肩甲帯内転角度,踵殿部距離であり,これらの因子を用いて発症確率を高精度に予測する回帰式を算出した(判別的中率87%)。算出した回帰式をExcelに組み込み,Excelのマクロ機能を活用することにより,上記3つのフィジカルチェックデータをパソコンに入力するだけで,リアルタイムに発症確率を表示するシステムを構築した。また,入力データは自動的にデータベースに組み込まれ,労せずデータを蓄積できるようにした。システム構築後の次シーズンに,本システムを導入したところ,96%の選手の予防意識は向上し,79%の選手に実際に予防に取り組む姿勢がみられた。【考察】本研究で発症に関連のある項目は,挙上位外旋角度,肩甲帯内転角度,踵殿部距離であった。これらの機能低下は発症に対する危険因子であり,優先的にチェックしていくことが重要であると考える。これら3項目は簡便であるため,現場の指導者や選手も行うことができると思われる。本システムではExcelのマクロ機能を活用したため,フィジカルチェックの結果をその場でフィードバックできた。今回,ほとんどの選手の予防意識は向上し積極的に予防に取り組むようになった。その理由として以下の2つのことが考えられた。1発症確率という具体的な数値を用いて選手一人一人の近未来を予測したこと。2フィジカルチェック後すぐにフィードバックしたことで,その結果が選手の印象に残りやすかったこと。我々のデータベースの規模はまだ小さいため,今後もデータの集積が必要である。しかし,本システムのマクロ機能により,入力されたデータは自動的にデータベースに蓄積されるため,今後システムの効果や妥当性の検証にかかる労力はかなり軽減される。したがって,本システムは,現場の選手のために効率的なフィジカルチェックを行うことができ,リアルタイムにフィードバックを行うことで選手の予防意識の向上を図ることができる。また,データも蓄積できることから,多方面からのデータ集積も簡便であると考える。【理学療法学研究としての意義】高校野球選手を対象に,必要最低限のフィジカルチェックを行うことで,投球障害肩・肘に関する近未来の発症確率を予測し,リアルタイムに選手にフィードバックできるシステムを開発した。理学療法士が臨床での経験を生かし,このようなシステムを構築することで,選手を障害から予防できると考える。今後,本システムを活用しデータベースを拡張していくことで,現場に良質なエビデンスを供給できるとともに普遍的な障害予防法の確立に寄与できるものと思われる。
著者
岡田 匡史
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

次の課題4点,「図像体系の構築」,「テキスト研究」,「指導法研究」,「鑑賞題材開発」を,当初計画を適宜修正・調整しながら進めた。研究遂行に当たり,図像学的分析が進む西洋絵画を厳選し,選定作品を学習材とする鑑賞授業を基本的枠組として設け,その枠内で上掲4課題の重点的かつ相互連関的な探求を継続した。その結果,西洋絵画(特に宗教画)の読解に要す基本図像の体系的整理,絵を読むのに要す諸テキストの整理,段階型鑑賞プログラムに基づく各種鑑賞題材の提案,そして,授業検証が達成できた。最終的に図像学的読解メソッドの概念を拡張でき,「自由解釈,テキスト準拠型鑑賞,図像学的読解」で成立する学習モデルも明示できた。
著者
前田 芳信 池邉 一典 香川 良介 岡田 匡史 権藤 恭之 神出 計
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

地域高齢者の疫学研究の結果から,残存歯数と平均歯周ポケット深さは,高血圧,認知機能といずれも有意な関連がみられた.一方,いくつかの循環器系疾患ならびに認知症関連遺伝子と歯数ならびに平均歯周ポケット深さとの間に,有意な関連がみられた.一般線型モデルによる分析の結果,高血圧,認知機能を従属変数とした場合,遺伝因子と歯数ならびに歯周ポケット深さの間に交互作用は見られなかった.以上の結果より,歯科疾患と循環器系疾患や認知機能との間には,共通の遺伝素因があることが示唆された.
著者
中島 卓郎 岡田 匡史
出版者
信州大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2001

本年度の研究は、「印象派期における音楽と絵画の相関(2)-ドビュッシーとモネの作品の構造的側面からの分析および考察-」を行った。ドビュッシーは、ピアノ作品におけるダンパーペダルの斬新な使用法により、1つ1つの和声をはっきりと示すことなく、それらを融合させて響きの色合を溶け合わせている。そして、そのような響きに包まれた休符や'で区切られる断片的な旋律は霧の中にうっすらと見えるかのようにぼかされている。これらは、モネが絵画において、SLの猛煙,立ち込める靄や霧をメイン・モティーフとし、輪郭をキチッと描かず、「積み藁」,「ルーアン大聖堂」,ロンドンで描いた「橋」とか「国会議事堂」などの連作,さらには殆ど融合してしまう晩期の「ばらの小道」連作など、対象が周りの空間に溶け込むような作法をとったことと極めて類似するものである。また、ドビュッシーが伝統的機能和声の破棄による方向性の薄い和声群を基盤としていることや、コントラストを避けた強弱法なども、やはりモネの、絵画作品において伝統的に使用されていた黒を避け、影を黒でない色で表すことによって生じる朦朧たる情調や、カラヴァッジオを嚆矢とするバロック的作風とは対照的に,明暗のコントラストを抑え,明るい色(概してパステル調)で全体をまとめていることなどと、相通じるものである。それらが結果として「ぼかしの効果」を生み出していると考える。ドビュッシーの作品に見られた、驚くほど多様で細密なアーティキュレーションや弱音域に執着した精緻な強弱法は、ほんの少しだけの微細な変化をもたらし、pp、pppの多彩さと限りないニュアンスを生み出した。一方、モネにおいては、白を混ぜる中間域トーンを主として達成される,色の無限とも言いうる諧調、緑にピンクやヴァイオレットが浸透したりもする移ろふようなデリケートな色調を用い、点描をビッシリと敷き詰めていく中で,その作品において色が発酵を始め,葉を繁らす木々,キラキラ輝く川面,陽を浴びた岩肌などが,独特なニュアンスを呈してくる。加えて、型・レ型・l型,また長短太細と,様々な種類のストロークが画面を構成し、油絵具の粘っこくネットリした触感性をよく生かした,稠密で美しいマティエールなどの技法も、「細部の緻密性と豊穣なニュアンス」という点において、ドビュッシーと近似していると捉えられる。そして、3点目は「主張のなさ」である。ドビュッシーの作品は、小節数・演奏所要時間の短さ、小規模な編成により、誠に簡潔性を帯びたものであり、極端な弱音城における表現の連続、旋回あるいは下降形をとる旋律線、楽節構造の曖昧さやモティーフの非発展性と非生成感、単調なリズムの反復などには、主張が感じられなく、クライマックスの不在と簡潔なコーダとともに、ドラマティックな展開とは全く無縁の世界と捉えられる。モネでの添景人物の反復的な置き方,並木の列,またはタッチの繰り返しには,やはり劇的な盛り上がりが認められない。そこでは、聖書などのテキスト,モティーフの寓意的・教訓的働きをベースとはせず,今ここで目に映り感覚に訴えてくる物を描き、ドラマを伴う人間でなく,普通の,ありふれたとも言いうる風景の方がテーマとなる。そして、対象となる人物に対し、しばしば目鼻口を描かず,心理表出に大きく益するところの表情が顔に表れていない。このようなアトモスフェリックな絵は中心性が退くため,拡散的な空間自体がテーマとなっている。これらのこと全てが、思弁性を帯びた主張をなくし、「耳を楽しませるための」、「目を楽しませるための」、音楽と絵画の創造を導いていると考える。