出版者
兵庫県立人と自然の博物館
雑誌
人と自然 (ISSN:09181725)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.89-97, 2022 (Released:2022-01-14)

与太郎淵は,岐阜県郡上市白鳥町歩岐島地区にかつて存在していた池で,コイ科フナ属の体色変異個体で あるヒブナの分布域として知られていた.しかし,1956 年に埋め立てにより消失した後,ヒブナが分布し ていたことは現地においても忘失されつつある.本研究では,その分布記録をあらためて提示するため,地 籍図・現地調査ならびに文献調査を実施して情報を整理した.現地調査では,いずれの地点でも与太郎淵の 痕跡は確認されなかったが,過去の地籍図および聞き取りによる情報から,その位置・形状や周辺の水路の 存在が判明した.文献調査では,与太郎淵の埋め立ての経緯や名称の由来が確認された.また,ヒブナは, 1934 年の文献を最後に分布記録が途絶していたが,聞き取りによる情報から,1950 年代まで生息してい た可能性が示唆された.本研究では,ヒブナの来歴については不明な点が残ったものの,生息していた水域 や年代について一定の知見が得られた.
出版者
Museum of Nature and Human Activities, Hyogo
雑誌
人と自然 (ISSN:09181725)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.99-124, 1994 (Released:2019-11-01)

八重山の島々には身近にいる小さな生物たちを主題に, ときにはユーモラスに, またときにはアイロニ カルに歌いあげた民謡が多い. 石垣市の西北10キロメートルほど離れた網張( アンパル) にひらけた広大 な干潟( カタバル) には, マングローブなどの植物が生い茂り,33 種の貝類,34 種のエビ・カニ類,3 種 のゴカイとユムシなどの底生動物相や様々な動物たちが息吹く. 四季を問わない生物の楽園は, 時には人 が相撲に興じ, 競馬を楽しみ, 貝などを採る場でもあった. ここに生息する生きものたちを題材にとり上 げ, 歌いあげる人々のエネルギーは, 干潮時に湾奥部まで開ける干潟の広大さ, そこにふり注ぐ太陽のま ばゆさを背景にした, 動植物資源の豊かさと決して無縁なものではない. このアンパルを舞台に展開される八重山の代表的な民謡である「網張ヌ目高蟹( アンパルヌミダガーマ) ユンタ」には, 15 種類ものカニが登場する. カニの生態, 形態や行動などを巧みに捉え, 擬人化したこの ユンタはいわば,「鳥獣戯画」の歌謡版といえるほどの傑作である. しかし, 登場する力二の種の生物学 的な特定に関して従来いくつかの混乱があった. そこで, カニの民俗学・動物行動学的な今回の調査結果 をもとにヒトとカニとのかかわりとその正体を探ってみた. 同時に, 石垣市からおよそ8 キロメートルほ ど東方を流れる宮良川においてカニの種と分布に関する調査も行った. これらの結果もとり入れながら, ユンタに登場するカニの種の解釈( 特定) に関する従来の見解にいくつかの異同と新知見を提示・論述し た.
出版者
兵庫県立人と自然の博物館
雑誌
人と自然 (ISSN:09181725)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.93-106, 2009

隠岐において糞虫相調査を行い,3 科26 種を記録した.これらのうち,チビコブスジコガネ,イガクロツヤマグソコガネ,セスジカクマグソコガネ,トゲニセマグソコガネの4 種は隠岐初記録であった.この結果,隠岐から記録のある糞虫は合計4科34 種となった.隠岐の糞虫相を山陰本土の糞虫相と比較したところ,隠岐に産する糞虫の種数は山陰本土の62% であった.隠岐では山陰本土に産する大型種が欠落していた.大型糞虫類が分布しない隠岐諸島では,カドマルエンマコガネが牛糞の処理に大きく貢献しているようである.
出版者
兵庫県立人と自然の博物館
雑誌
人と自然 (ISSN:09181725)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.197-243, 1995 (Released:2019-10-31)

Hyogo Prefecture has been known as one of prominent prefectures for metallic and nonmetallic mineral resources in Japan. There are variety of types of (1) metallic deposits and (2) non-metallic deposits in Hyogo Prefecture as shown below: (1) metallic deposits: polymetallic (Cu ・ Zn ・ Pb) vein deposits, Zn ・ Pb skarn deposits, bedded cupriferous pyrite deposits (Kieslager deposits), Au-Ag vein deposits, Ni deposits, podiform Cr deposits, bedded Mn deposits, Mo deposits and Fe skarn deposits, and (2) non-metallic deposits: strata-bound brick-silic astone (Keiseki) deposits, talc deposits, feldspar deposits, pottery stone (Toseki) deposits, and Roseki (pyrophyllite-, kaolin-, or sericite-clay )deposits. Especially, the Ikuno and Akenobe mining region has been famous as one of the largest and significant metallogenic regions in Japan and the large-scale Sn-W-bearing polymetallic vein deposits has been mined for copper, zinc, lead and tin. In this paper, location and type of ore deposit, geological setting, host rock of ore deposit, grade and constituent minerals of ore, metallogenic period and history of mining are briefly reviewed and summarized for each metallic and non-metallic mine in Hyogo Prefecture.
出版者
兵庫県立人と自然の博物館
雑誌
人と自然 (ISSN:09181725)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.53-62, 2016 (Released:2019-01-18)

東南アジアの国々では,俗にテンプル・モンキーと俗称される,寺院や公園などにすみついたサルの群れ を見かける.タイ国ロブリ市とインドネシア国西ジャワ州パンガンダラン自然保護区のカニクイザルを中心 に,そのようなテンプル・モンキーの長期にわたる個体数変動を分析した.シンガポールとインドネシア国 バリ州ウブドのモンキー・フォレストの事例を含め,いずれにも共通して見られる特徴があった.1970 年 代までは,すべての地域で個体数は少なかったが,その後,急速に個体数増加に転じ,現在も増加している. この近年の個体数増加は急速な経済発展や都市化の進行と共に人為的にもたらされた.このようなカニクイ ザル集団が今後も人間と共存していくためには,注意深い個体群管理が必要になる.
出版者
兵庫県立人と自然の博物館
雑誌
人と自然 (ISSN:09181725)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.71-74, 2015 (Released:2019-01-21)

本州において,シソ科アキギリ属のハルノタムラソウSalvia ranzaniana,ナツノタムラソウS. lutescens var. intermedia, ミヤマタムラソウS. lutescens var. crenata, ダンドタムラソウS. lutescens var. stolonifera の訪花昆虫を調査した.その結果,ツリアブ科1 種(ビロウドツリアブBombylius major)とハナアブ科7 種(ホソヒラタアブEpisyrphus balteatus,ミナミヒメヒラタアブSphaerophoria indiana,ツマグロコシボソハナアブAllobaccha apicalis,マダラコシボソハナアブBaccha maculata,キアシマメヒラタアブParagus haemorrhous,ハナダカハナアブRhingia laevigata,マドヒラタアブ属の1 種Eumerus sp.)を確認した.