著者
竹中 佐英子
出版者
目白大学
雑誌
目白大学人文学研究 (ISSN:13495186)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.163-175, 2006

語彙教育は日本人に対する中国語教育の中であまり重視されていない分野である。その原因は主に▽中国語は語形変化のない孤立語であり、語の意味、用法を説明することと文法を説明することが重複するという特徴を持っている▽日中両言語間には同形同義語が数多く存在し、日本人は発音や文法に比べ、中国語の語彙習得は簡単だと感じている-の2つと考えられる。また、日本人向け中国語教材の編集には、しばしば中国人のコーパス、中国の国語教材、在外華僑向け華語教材などが参考にされるため、中国語圏で一生生活する人にとって必要な語が登場することになるのだが、その中には日本で中国語を学び、旅行、留学など、限られた期間のみ中国に滞在する日本人には不要なものも多く、教育効果を上げているとは言いがたい。本稿は3種類のアンケート調査を実施し、日本人中国語学習者にとって使用頻度の高い中国語の語彙を探ることを試みた。1つ目の調査は日本人中国語学習者の中で一大集団を形成する大学生を対象に、使用中の教材に掲載された語彙の使用頻度を尋ねた。結果、大学生活と関係ある語("上〓"授業を受ける"〓"本…)や数字を用いた語("星期一"月曜日"一月"1月…)などは使用頻度が高く、中国的色彩の強い語("喇〓"ラマ教の僧"二胡"胡弓…)や動植物の名前("〓〓"ラクダ"桂花"モクセイ…)などは使用頻度が低かった。同調査は、日本人向け中国語教材が中国に長期留学する外国人向け教材や、中国の小学校国語教科書を参考に編集されていることを物語っている。2つ目の調査では日本人大学生の生活実態を調査し、彼らの常用語彙("〓〓〓"カレーライス"〓〓学校"自動車教習所"上〓"インターネットをする…)を割り出した。3つ目の調査は日本人大学生が中国に滞在した際、よく見たり、聞いたりした語彙を尋ねた。結果、中国人にとっては必ずしも常用語ではない語("必〓客"ピザハット"豆沙面色"あんぱん…)の使用頻度が高かった。日本人に対する中国語教育の効果を上げるには、学習者にとって使用頻度の高い語を用いて教材を執筆し、授業を行うことが不可欠である。また、更に効果を高めるため、旅行者、短期留学者、長期留学者、中国駐在のビジネスマン、新聞記者、外交官など、さまざまなタイプの日本人中国語学習(使用)者の常用語彙を調査し、学習(使用)者の特徴に合った教材や辞書を編集する必要がある。

2 0 0 0 OA 「あたし」考

著者
山西 正子 山田 繭子 Masako YAMANISHI Mayuko YAMADA 目白大学外国語学部アジア語学科 西東京市図書館
雑誌
目白大学人文学研究 = Mejiro journal of humanities (ISSN:13495186)
巻号頁・発行日
vol.(4), pp.183-200, 2008

本稿では、自称詞「あたし」について、史的変遷を概観し、現代のいわゆるJ-POPの世界での「あたし」の位置づけを考察する。そして、しばしば「ややくだけた語感」とされる「あたし」が、J-POPの歌詞としては、「かわいらしさや女性のオーラを伝える」ためのアイデンティティ管理の表現として意図的に選択されることを確認する。その背景に、現代における、終助詞を含む文末表現に殊に顕著な、言語上の性差の縮小を想定する。アーティストが、自分のアイデンティティ表明の場である歌詞の中で、大きく女性に傾いた、いわば「有標の自称詞」である「あたし」を多用するのは、終助詞の使用など、それ以外の言語上のアイデンティティ表明手段が弱体化しているからではないか。「あたし」は一般的に「「わたし」の変化したかたち」と説明される。しかし、さらに変化して特化されている「わっち」や「あたい」に比して、いわば「変化の度合いが小さい/「わたし」との乖離が少ない」ために、様々な表情をもち得る。男性には「おれ」や「僕」などの「わたくし」系に属さない自称詞があるが、一般的にはそれを使用しない女性にとって、「わたくし」「わたし」「あたし」の選択は、時に大きな意味をもつ。しかるに、現代語では、「わたくし」系の自称詞は漢字「私」で表記されることが多い。日常語の実際の発音習慣が「わたくし」か「わたし」か、さらには「あたし」かを問わず、文字化するときには漢字表記「私」ですませてしまうことが多い。その中であえて「あたし」と表記するときの表現者の意図に迫り、アイデンティティ管理の手段として「あたし」が積極的に選択されることもある点を指摘したい。

2 0 0 0 OA 生存権再考

著者
植村 泰三
出版者
目白大学
雑誌
目白大学人文学研究 (ISSN:13495186)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.75-82, 2010