著者
栗田 秀實 植田 洋匡
出版者
長野女子短期大学出版会
雑誌
長野女子短期大学研究紀要 (ISSN:18801870)
巻号頁・発行日
no.11, pp.1-19, 2005

中部山岳地域における酸性雨の陸水への影響を検討するため、人為的な汚染の影響が小さい上流域の河川、湖沼の24地点(15河川20地点、4湖沼4地点)について、1972~2001年度の30年間の公共用水域における水質モニタリングデータを用いて、pHの経年変化を解析し、降水のpHとの関係について検討した。降下ばいじん調査データおよび酸性雨調査データによると、1972~2001年度の30年間における長野県下の降水のpHは5.0前後で、ほぼ横ばいであったと推定された。降水のpHの年平均値は、アジア大陸や東京湾沿岸地域からの酸性物質の輸送の影響を受けやすい長野県北部および東部で低く、一方、これらの影響を受けにくい長野県中部、南部で高い傾向を示した。河川・湖沼のpHは、解析を行った24地点のうち12地点で有意な経年的な低下を示した(危険率5%)。酸性岩を集水域の基盤とする中綱湖、青木湖、木崎湖、高瀬川、姫川、梓川において、前報(栗田ら,1990,1993)同様、PHは有意な低下傾向を示し、過去30年間のpHの低下量は0.2~1.1と推定された。また、前報で報告した河川以外の、夜間瀬川、中津川、神川、釜無用においてもpHの有意な低下がみられ、過去30年間のpHの低下量は0.3~0.7と推定された。pHの経年的な低下が見られた河川のなかには、アルカリ度(HCO_3^-濃度)の低い河川があり酸性雨の影響が示唆された。pHが有意な経年的な低下を示した12地点のうちで、2001年度のpH(回帰式による推定値)が最も低いのは夜間瀬川の6.5、これについで低いのは、中綱湖、中津川、青木湖、高瀬川の6.7~6.8であった。温泉水の流入によりHCO_3^-濃度が低く、酸性雨の中和能が小さい夜間瀬川の場合には、融雪初期に顕著なpHの低下がみられた。これらのことから、中部山岳地域上流域の、酸性雨に対する緩衝能の小さい河川・湖沼の一部において、pHが経年的に低下しつつあり、pHが有意な低下を示す地域は、酸性岩を基盤とする地域以外にも次第に拡大していることが示唆された。