著者
栗田 秀實 植田 洋匡
出版者
Japan Society for Atmospheric Environment
雑誌
大気汚染学会誌 (ISSN:03867064)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.251-260, 1985-08-20 (Released:2011-11-08)
参考文献数
15
被引用文献数
8

傾度風が弱い場合に大気汚染物質の長距離輸送を引き起こす総観規模の気象条件について, 気圧, 地上風, 高層気象データに基づいた解析を行った。特に, 長距離輸送に最も重要な役割を果す, 内陸の山岳地帯に日中に形成される熱的低気圧と, 高層気象の特徴に注目した。長距離輸送は高気圧に覆われ, 上層風が弱い場合に発生する。このとき, 大気下層では局地風が発達し, 熱的低気圧および総観規模の高気圧に伴う沈降性逆転によりこれらの局地風が結合され, 熱的低気圧に吹き込む太平洋側からと璃本海側からの2つの大規模な風系が形成される。そして, 総観規模の気圧分布は熱的低気圧の中心位置, したがって, 2つの大規模風系の収束線の位置を決定し, その結果, 長距離輸送による大気汚染物質の到達範囲を決定する。
著者
栗田 秀實 植田 洋匡
出版者
長野女子短期大学出版会
雑誌
長野女子短期大学研究紀要 (ISSN:18801870)
巻号頁・発行日
no.11, pp.1-19, 2005

中部山岳地域における酸性雨の陸水への影響を検討するため、人為的な汚染の影響が小さい上流域の河川、湖沼の24地点(15河川20地点、4湖沼4地点)について、1972~2001年度の30年間の公共用水域における水質モニタリングデータを用いて、pHの経年変化を解析し、降水のpHとの関係について検討した。降下ばいじん調査データおよび酸性雨調査データによると、1972~2001年度の30年間における長野県下の降水のpHは5.0前後で、ほぼ横ばいであったと推定された。降水のpHの年平均値は、アジア大陸や東京湾沿岸地域からの酸性物質の輸送の影響を受けやすい長野県北部および東部で低く、一方、これらの影響を受けにくい長野県中部、南部で高い傾向を示した。河川・湖沼のpHは、解析を行った24地点のうち12地点で有意な経年的な低下を示した(危険率5%)。酸性岩を集水域の基盤とする中綱湖、青木湖、木崎湖、高瀬川、姫川、梓川において、前報(栗田ら,1990,1993)同様、PHは有意な低下傾向を示し、過去30年間のpHの低下量は0.2~1.1と推定された。また、前報で報告した河川以外の、夜間瀬川、中津川、神川、釜無用においてもpHの有意な低下がみられ、過去30年間のpHの低下量は0.3~0.7と推定された。pHの経年的な低下が見られた河川のなかには、アルカリ度(HCO_3^-濃度)の低い河川があり酸性雨の影響が示唆された。pHが有意な経年的な低下を示した12地点のうちで、2001年度のpH(回帰式による推定値)が最も低いのは夜間瀬川の6.5、これについで低いのは、中綱湖、中津川、青木湖、高瀬川の6.7~6.8であった。温泉水の流入によりHCO_3^-濃度が低く、酸性雨の中和能が小さい夜間瀬川の場合には、融雪初期に顕著なpHの低下がみられた。これらのことから、中部山岳地域上流域の、酸性雨に対する緩衝能の小さい河川・湖沼の一部において、pHが経年的に低下しつつあり、pHが有意な低下を示す地域は、酸性岩を基盤とする地域以外にも次第に拡大していることが示唆された。
著者
石川 裕彦 植田 洋匡 林 泰一
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

西太平洋上で発生し日本付近まで北上してきた台風は、中緯度の大気の傾圧性の影響を受け、その構造が徐々に変化する。この過程で、さまざまなメソ擾乱が発生し、災害発生の原因となることが多い。本研究では、数値シミュレーションにより台風を再現し、その構造変化、メソ擾乱の発生、気象災害との関連を調べた。不知火海の高潮災害や豊橋の竜巻等の災害をもたらした1999年の台風18号は、日本海で一旦弱まった後再発達をとげたが、この様子を数値モデルで再現することに成功した。そして、再現結果を解析することにより、最盛期の台風の上層に形成される負渦位偏差が台風衰弱に重要であること、再発達期には対流圏上層のトラフにともなう正の渦位とのカップリングが生じ、これが再発達の要因となっていることを解明した。さらに、豊橋市付近で発生した竜巻に着目した数値計算を行い、竜巻発生場所の周辺で、対流潜在位置エネルギー(CAPE)とストーム相対ヘリシティ(SREH)との積であるエネルギーヘリシティ示数(EHI)が大きな値を持つことが示された。これは、将来、台風に伴う竜巻発生を予報できる可能性を示唆した者である。近畿地方、特に奈良盆地に大きな強風害をもたらした1998年の台風7号に関しては、消防署等も含むさまざまな期間から集めた気象観測データを解析し、台風に伴う地上風を詳細に調べた。これらの強風は、台風の背面で発生していること、強風域はバンド状のメソ降水系に対応していることを明らかにした。さらに、この強風域は台風の循環と中緯度の西風との号流域にから発生していることが数値実験で示された。秋に襲来する台風にともないしばしば観測される時間スケールの短い急激な気圧低下(pressure dip)に関しても、その発生頻度や性状を観測データからあきらかにするとともに、その発生メカニズムを数値シミュレーションで明らかにした。
著者
栗田 秀實 植田 洋匡
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.45-64, 2006-03-10
参考文献数
46
被引用文献数
6

中部山岳地域における酸性雨の陸水への影響を検討するため,長野県下の公共用水域水質モニタリング地点(79地点)のうち,人為的な汚濁の影響が小さい上流域の河川,湖沼の27地点(17河川22地点,4湖沼5地点)について,1972〜2003年度の32年間の水質モニタリングデータを用いてpHの経年変化等を解析し,降水のpHとの関係について検討した。酸性雨調査データおよび降下ばいじん調査データによると,1972〜2003年度の32年間における長野県下の降水のpHは5.0前後で,ほぼ横ばいであったと推定された。降水のpHの年平均値は,アジア大陸や首都圏地域からの酸性物質の輸送の影響を受けやすい長野県北部および東部で低く,一方,これらの影響を受けにくい長野県中部,南部で高い傾向を示した。河川・湖沼のpHは27地点のうち15地点で有意な経年的な低下を示した(危険率1%:12地点,5%:3地点)。酸性岩が集水域に広く分布する姫川,中綱湖,青木湖,高瀬川,田川,木崎湖,小渋川,中津川,梓川,松川の他,酸性岩の分布が見られない奈良井川,夜間瀬川および裾花川においてもpHは有意な低下傾向を示し,過去30年間のpHの低下量は0.3〜0.8と推定された。pHの経年的な低下が見られた河川のなかには,アルカリ度(HCO_3^-濃度)の低い河川があり酸性雨の影響が示唆された。pHが有意な経年的な低下を示した15地点のうちで2003年度のpH(回帰式による推定値)が最も低いのは夜間瀬川の6.3,これについで低いのは,木崎湖底層,中津川,中綱湖,青木湖,高瀬川の6.4〜6.8であった。低アルカリ度の温泉水の流人によりアルカリ度が低く,酸性雨の緩衝能が低い夜間瀬川の場合には,融雪初期に顕著なpHの低下がみられた。これらのことから,中部山岳地域上流域の河川・湖沼の一部において,酸性雨の影響によりpHが経年的に低下しつつあり,pHが有意な低下を示す地域は,酸性岩を基盤とする地域以外にも次第に拡大していることが示唆された。