著者
馬場 良二
出版者
熊本県立大学
雑誌
熊本県立大学大学院文学研究科論集 (ISSN:18829082)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.lxiii-lxxix, 2008-09

秋山正次『肥後の方言』(1979)には、熊本方言の語句リストがある。その148語のうち、『日葡辞書』にあったのは27語だった。これら27語に3語をくわえ、『日葡辞書』の記述を詳細に分析し、現代熊本方言での意味用法と比較した。秋山が肥後方言だと言っている27語のうちの20語を『日葡辞書』は九州方言だと言っていない。16世紀当時は全国共通であった語が、その後、方言的な意味、語義を発展させていったのかもしれない。もう一つ考えられることは、「X.、Ximo」の注記は九州の方言語彙の中でも、とくに必要な場合にだけ付された可能性である。もともと『日葡辞書』はイエズス会士たちの日本語学習のために作成されたものであり、当時の日本語の客観的な記録、記述を目的として編まれたものではない。「この語、あるいは、この語義は九州独特なもので、使うときには気をつけよ」という語学上の実践的な意味合いの記号なのかもしれない。