著者
川久保 篤志
出版者
地域地理科学会
雑誌
地域地理研究 (ISSN:21878277)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.14-23, 2023 (Released:2023-08-12)
参考文献数
13

本稿は、1992年のオレンジ果汁の輸入自由化で需要が激減し、苦境に陥った国産柑橘果汁産業が、その後どのような経営転換を遂げたのか考察したものである。その結果、国産柑橘果汁生産の大半を担っていた農協系工場は、その規模は5分の1以下に低下したものの、濃縮果汁還元による製品だけでなくストレート果汁製品の生産にも注力するようになったこと、みかんだけでなく多様な柑橘類の搾汁・製品化を行うようになったことが明らかになった。これは、経済・社会の成熟化によって量より質を重視する消費嗜好が高まる中、経営を高付加加価値路線に転換したものといえる。また、2010年以降は、非農協系の果汁工場の参入もみられるようになった。これらの工場は、従来の柑橘果汁製品との価格競争を回避するために「原料にもこだわった高品質なストレート果汁」の製造に特化しているため、一般にスーパー等で見かけることはなく、高級食品店や土産物店、ふるさと納税サイトを含むネット通販が主な販路となっている点に特徴がある。このような高級感とローカル色が特徴の飲料に対する需要がいつまで続くのかは未知数だが、柑橘産地内における農家等の起業による果汁飲料の製造・販売は「農業の6次産業化」の動きとしては極めて興味深い。
著者
森 泰三
出版者
地域地理科学会
雑誌
地域地理研究 (ISSN:21878277)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.1-13, 2023 (Released:2023-08-12)
参考文献数
6

高度経済成長期以降に都市周辺部に形成された住宅団地では、その後の急激な人口高齢化に関連する地域コミュニティの低下、空き家・空き地の増大などの課題が指摘されている。本稿では、全国の面積100ha以上の大規模住宅団地のうち1970年代までに入居開始の高経年住宅団地を対象として、年齢別人口構成についてクラスター分析により分類した。その結果、高齢人口が特化していない多様世代型団地を析出することができた。さらに、それぞれの多様世代型団地の開発と入居時期、生活利便性、交通機能などの特徴を考察した結果、開発の遅れなどにより一斉に入居することなく入居時期が分散すること、商業施設などの立地により生活利便性の高い地域で住宅需要が恒常的に高いこと、新たな鉄道の開通や駅の開設など交通インフラの充実により交通利便性の向上が図られていることなどの特徴が見いだされた。
著者
赤沢 克洋 古安 理英子
出版者
地域地理科学会
雑誌
地域地理研究 (ISSN:21878277)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.1-14, 2020

コンテンツツーリズムの取り組みを充実させるためには、旅行者選好に基づくマーケティング管理が必要である。その端緒は旅行者がコンテンツツーリズムに対して何を求めているのかを把握することである。しかし、コンテンツツーリズムにおける旅行者ニーズの把握は十分ではない。そこで本研究では、旅行者の視点からコンテンツツーリズムの取り組みの重要度を定量的に明らかにすることを目的とした。このために、ベスト・ワースト・スケーリングに基づいたアンケート調査を実施し、コナンのまちづくりを分析対象とした2つの分析課題に取り組んだ。第1に、ランダムパラメータロジットモデルを適用した結果から、①作品の世界を味わえるような取り組みが旅行者にとって最も重要であること、②コナン通りに見どころをつくる取り組み、撮影スポットを充実させる取り組み、家族で遊べる施設や場所を充実させる取り組み、コナンに関するグッズを充実させる取り組みが重要であること、③入館料を下げる取り組みが相対的に重要でないことがわかった。第2に、交差項を含めた推定を行った結果から、①若年層、長時間滞在、女子旅、子供連れ以外、休憩目的以外、コナンファン、コナンマニア、漫画アニメ愛好、聖地巡礼および買い物愛好の属性や選好をもつ旅行者ほど作品の世界を味わえるような取り組みの重要度が相対的に高いこと、②男性、県内居住、長時間滞在、女子旅、子供連れ以外、コナンファン、コナンマニア、漫画アニメ愛好、聖地巡礼および買い物愛好の属性や選好をもつ旅行者ほどコナンのまちづくりにおける様々な取り組みの重要度が相対的に高いこと、③旅行者のいくつかの属性や選好と取り組みの重要度には理論整合的な関係が確認できることが示された。