著者
苅谷 愛彦
出版者
日本山の科学会
雑誌
山の科学 (ISSN:24357839)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.1-11, 2019 (Released:2022-01-04)

日本の山地は内的営力の影響を強く受ける変動帯にあり,外的営力をもたらすモンスーン性の多雨・多雪気候下に置かれている.このような自然特性を持つ日本の山地では,残雪凹地や地すべり地形は,氷河地形および凍結融解作用や永久凍土の影響を強く受ける周氷河地形と同等かそれ以上に普遍的な存在である.それにもかかわらず,高山帯や亜高山帯で展開される日本の山地地形学および気候地形学において,残雪凹地と地すべり地形は研究上のニッチともいうべき状況にあり,研究の蓄積は不十分である.本稿は日本の山地における残雪凹地と地すべり地形の地形学的研究について,研究動向を整理・論評したものである.また,これらの地形を研究対象とする意義や今後の課題に言及している.多雨多雪かつ地殻変動の活発な湿潤変動帯にある山地を扱う日本の地形学を持続・発展させるために,残雪凹地や地すべり地形を取りあげ,内外に成果を発信する意味は大きい.
著者
永田 秀尚 小嶋 智
出版者
日本山の科学会
雑誌
山の科学 (ISSN:24357839)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.1-12, 2023 (Released:2023-02-06)

上高地,梓川左岸斜面での地質調査によって,重力変形体の内部構造が明らかになった.変形体の基岩は,ジュラ紀付加体美濃帯の主として泥岩からなる.層理面は北北東-南南西走向をもち,分水界の尾根にほぼ平行である.また地層は西に高角度で傾斜しており,これによって岩盤は地表面傾斜より面構造が急な逆目盤構造となっている.変形体内部では,その上部で岩盤のゆるみが大きいほど層理面傾斜が低角度となり,また下部では層理面が東傾斜となっている.したがって変形体は全体的にはS字状の断面構造をもつ.厚さ100 mあるいはそれ以上に達するこのような構造は,おそらく岩盤の弾塑性的な挙動による座屈あるいは塑性的な流動によって形成された.