- 著者
-
高山 憲之
白石 浩介
- 出版者
- Institute of Economic Research, Hitotsubashi University
- 巻号頁・発行日
- 2012-08
学校や大学を卒業した後の初職が非正規雇用などでBad Start (BS) だった人は、その後の職業遍歴や収入等も劣後する結果、年金受給見込額も低く、Bad Finish (BF) になる傾向がある。これはBS・BF問題と呼ばれ、近年、イタリアをはじめとするヨーロッパ各国において関心が高まりつつある。本稿では、ねんきん定期便を活用した「くらしと仕事に関する調査(LOSEF)」(2011年11月時点における30~49歳層のパネルデータ)を用いて、日本におけるBS・BF問題の実態を調べ、次の6つの事実を新たな知見として確認した。まず、①最近、日本では生年が遅くなるにつれてBS割合が高まる傾向があり、2011年時点で30歳代前半層のBS割合は男性32%、女性40%にまで上昇していた。そして、②初職が正規雇用 (Good Start, GS) であると、男性の場合、その後も正規として就業しつづける確率がきわめて高い。一方、BSであっても、男性の場合、35歳までに正規雇用に変わる人が少なくない。ただし、女性の場合、23歳以降の正規化がほとんど観察されないなど、男性との違いが著しい。次に、③2011年時点において30歳代の人びとは「親の世代より豊かになれない」と思っている人が過半を占めていた。また、④生活水準が10年後に向上すると思っている人は高々25%にすぎず、10年後においても向上しないと思っている人が多数派だった。⑤BSであっても、初職に雇用期限の定めがないと正規化する確率が高く、逆に公立機関で職業訓練を受けると正規化する確率が却って低くなっていた。最後に、⑥2011年時点で30歳代前半のBS世代に着目すると、60歳時点における厚生年金への加入年数が25年未満となって低年金になる確率は男性50%、女性90%程度になると推計された。