著者
矢守 克也
出版者
奈良大学総合研究所
雑誌
総合研究所所報 (ISSN:09192999)
巻号頁・発行日
vol.8号, pp.165-176, 2000-03

社会的表象理論(social representation theory)が、モスコビッシ(Moscovici,1961;1984)によって提唱されてから40年近くが経過した。しかし、社会心理学界における本理論の評判は芳しくない。なぜか。理由は簡単である。それは、本理論は、個別的な対象・現象をターゲットにした個別理論ではなく、従来の諸理論のほとんどすべてがその大前提として依拠している認識論一主客2元論一、および、方法論一論理実証主義一に抜本的改訂を迫るグラソド・セオリーだからである。自らが長年依拠してきた基盤を揺るがしかねない思潮がスムーズに受容されるわけはない。こうして本理論は、非常に否定的な評価を受けるにいたった。もっとも、こうした理解は、やや繊細さを欠いている。正確に記せば、これまで、本理論は否定的に評価されてきたのではなく、端的に理解されなかったか、もしくは、既存の社会心理学(あるいは、それが拠って立つ認識論)に適合する形に歪曲されてきたのである。本稿は、このような無理解・曲解が生じる原因の一端は、社会的表象理論の側の不備、正確には、不徹底一social constructionismの立場を徹底しえなかったこと一にあったことを指摘し、あわせて、真の理解へ向けた道のりを示すことを意図したものである。この際、具体的には、近年、社会的表象理論について原理的な再検討、および、実証的な研究の双方を精力的に進めているワーグナー(W.Wagner)の著作を議論の出発点とした。

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