- 著者
-
矢守 克也
- 出版者
- The Japanese Group Dynamics Association
- 雑誌
- 実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
- 巻号頁・発行日
- vol.40, no.2, pp.95-114, 2001-07-15 (Released:2010-06-04)
- 参考文献数
- 58
- 被引用文献数
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本稿は, モスコビッシ (S. Moscovici) が提唱した社会的表象理論は, 個別的な対象をターゲットにした個別理論ではなく, 従来の社会心理学理論の多くが, その前提として依拠している認識論-主客2項対立図式-に抜本的な改訂を迫るグランド・セオリーであることを明示し, かつ, そのことを理解する鍵が, 本来, 本理論と一体のものとして提起された社会構成主義の主張を, 徹底した形式で導入することにあることを明らかにしようとするものである。具体的には, 近年, 同理論について精力的に検討しているワーグナー (W. Wagner) の著作を参照しながら, 次の3点について論述した。第1に, 社会的表象が, 認知する主体の「内部」に存在する心的イメージの一種と考える誤解 (第1の誤解) を解消するために, 社会的表象とは, むしろ, 認知される対象であって, 主体の「外部」に存在するものであるとの主張を行なう。第2に, この主張は, 第1の誤解を払拭するために導入した第2の誤解であることを明示し, 両方の誤解をともに解消して, 社会的表象とは, 「外部」に存在する対象そのものではなく, それをそのようなものとして, 主体の前に現出させる「作用」であることを明らかにする。最後に, 上の理解になお残存する第3の誤解-主体だけは, その作用に先だって, 「内部」に自存すると考える誤解-をも解体し, 社会的表象とは, 「内部 (主体) 」と「外部 (対象) 」とが混融した状態から, 両者を分凝的に現出させる「作用」であることを示す。