著者
矢守 克也
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.66-82, 2002-09-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
64
被引用文献数
4 1 2

本研究は, 災害・事故が集合的に風化するプロセス-社会的な現実感が特定の災害・事故から消失していく長期的かつ社会的な過程-を測定・表現する方法について検討したものである。まず, 風化の長期的なトレンドを, マスメディアの報道量の長期変化を通して近似的に測定・表現した先行研究の成果を踏まえ, それを撹乱する2つの個別的な要因について実証的に検討した。具体的には, 第1に, 相次いで発生した複数の事象が相互に影響し, 後続事象の発生によって先行事象に関する報道量が低下する現象 (相互干渉現象) をとりあげた。第2に, 事象の発生期日をピークとして, 周期的かつ一時的に報道量が増加する現象 (周期変動現象) について検証した。その結果, これらの現象は, 一面では, マスメディア報道による風化現象の測定にとっての撹乱要因であるが, 他面では, むしろ, 災害・事故の風化現象に固有の社会過程を明示し, 記述するために利用可能であることが示された。次に, マスメディア分析を補完する新たな方法として, 災害・事故の発生後, 人々が実際に示す行動 (変数) を長期的に追尾する方法をいくつか提起し, その有効性を確認するとともに, こうした行動変数とマスメディア報道との関連性についても検討した。さらに, 共同想起の概念に依拠して, 本稿で検討した集合的な記憶と個人的な記憶との相互連関についても論じた。
著者
矢守 克也
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.137-149, 2009 (Released:2009-03-26)
参考文献数
42
被引用文献数
3 1

本論文は,災害心理学の領域における重要概念の一つとされてきた「正常化の偏見」(normalcy bias)について,社会構成主義の視点にたって再検討し,その上で,同概念が防災実践に対してもたらす意義と問題点について理論的に検討したものである。「正常化の偏見」については,実際には,事後(災害後)のsense-makingが大きく関与して生じる事象であるにもかかわらず,事前(災害前)のdecision-makingのメカニズムを説明する概念として転用する混乱が生じていたと考えられる。そこで,まず,このような転用が生じるのは,「こころの前提」,「危険評価の前提」,「役割分担の前提」という3つの前提の上に立ってわれわれが事態を認識するからであることを指摘する。その上で,転用によって,現実に展開されている防災実践にどのような影響が出ているかについて,功罪両面にわたって分析する。最後に,「正常化の偏見」に代わるsense-makingのあり方として,「リアリティの共同構築」を提起し,それが防災実践をどのように変革しうるのかについて具体的な事例をあげながら考察する。
著者
矢守 克也
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.2006, (Released:2020-11-21)
参考文献数
52

本論文は,社会心理学における実験的研究について検討した展望論文である。特に,実験の概念をより広義なものへと拡張し,実験という手法が本来有する豊かなポテンシャルをより大きく引き出す方向で,実験社会心理学の領域を再構築することをねらいとした。一般に,典型的な実験室実験と文化・歴史的な視点を重視する現場研究との距離は非常に大きいと見なされている。しかし,中間部に,「アイヒマン実験」や「実験の史学」などを配置すると,両者の連続性を確認できる。その上で,実験社会心理学研究の拡張を2つの方向から構想した。第1は,草創期のグループ・ダイナミックスにおける実験研究がそうであったように,実験室ならではの生態学的特性を活かしつつ,人間の実存性や社会のリアルな生態に接近するための回路を設け,実験室実験に現場研究の長所を取り込む方向性である。第2は,「実験の史学」のように,現実社会を対象とした研究に,実験操作に匹敵する比較条件を設定するための仕組みを導入し,現場研究に実験室実験の美点を取り込む方向性である。こうした志向性を有する具体的な事例を社会心理学,歴史学,防災・減災研究の領域から紹介し,新たな実験社会心理学研究の構想を提示した。
著者
矢守 克也 李 旉昕
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.1712, (Released:2017-12-02)
参考文献数
19

高知県黒潮町が掲げる「私たちの町には美術館がありません,美しい砂浜が美術館です」というフレーズは,「Xがない,YがXです」の形式をもつ。本論文では,この形式が,「限界集落」,「地方消滅」といった言葉によって形容されるきびしい状況下にある地方の地域社会の活性化を支える根幹的なロジックになりうることを,「Xからの疎外/Xへの疎外」の重層関係を基盤とした見田宗介の疎外論の観点から明らかにした。この疎外論の根幹は,「Xからの疎外」(Xがないことによる不幸)は,その前提に「Xへの疎外」(Xだけが幸福の基準となっていること)を必ず伴っているとの洞察である。よって,Xの欠落に対してXを外部から支援することは,「Xからの疎外」の擬似的な解消にはなっても,かえって「Xへの疎外」を維持・強化してしまう副作用をもっている。これに対して,YがXの機能的等価物であることを当事者自身が見いだし宣言したと解釈しうる黒潮町のフレーズには,「Xからの疎外」を「Xへの疎外」の基底層にまで分け入って根本から克服するための道筋が示されていると言える。
著者
矢守 克也
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.48-59, 2016 (Released:2016-10-06)
参考文献数
19

本稿は,アクションリサーチにおける時間性について理論的に検討するものである。アクションリサーチを定義づける変化,目標状態,ベターメントといった特性が共通して前提にしているものこそ,時間だからである。ここで重要なことは,2つの時間系列,すなわち,人間的な実践の外的な枠組みとしての「客観的時間」と,「主体的時間」とのちがいである。「主体的時間」とは,たとえば,「まだ試験終了まで10分以上ある」など,「今はもう」,あるいは「今はまだ」といった,自分自身の営みにおける主体的な構えとともにある時間のことである。「主体的時間」は,既定性(ポスト・フェストゥム)と未定性(アンテ・フェストゥム)という2つの対照的な特性を生み,両者は逆説的なダイナミズムをなしている。さらに,この両者と「客観的時間」における過去・現在・未来とが構成する平面上で展開される〈インストゥルメンタル〉(媒介・手段的)な時間の総体と,それとは対極にある〈コンサマトリー〉(直接・享受的)な時間とが,別の逆説的なダイナミズムをなしている。アクションリサーチでは,これら2組の時間のダイナミズムを,研究者がどのように認識し,かつ自らがその中に巻き込まれつつ,それをいかに構想し運用していくかが重要である。
著者
矢守 克也 飯尾 能久 城下 英行
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.82-99, 2021 (Released:2021-03-04)
参考文献数
42

巨大災害による被害,新型感染症の世界的蔓延など,科学(サイエンス)と社会の関係の問い直しを迫られる出来事が近年相次いでいる。本研究は,このような現状を踏まえて,地震学をめぐる科学コミュニケーションを事例に,「オープンサイエンス」を鍵概念として科学と社会の関係の再構築を試みようとしたものである。本リサーチでは,大学の付属研究施設である地震観測所を地震学のサイエンスミュージアム(博物館施設)としても機能させることを目指して,10年間にわたって実施してきたアクションリサーチについて報告する。具体的には,「阿武山サポーター」とよばれる市民ボランティアが,ミュージアムの展示内容に関する「解説・観覧」,地震活動の「観測・観察」,および,その結果得られた地震データ等の「解析・解読」,以上3つの側面で地震学に「参加」するための仕組みを作り上げた。以上を踏まえて,「学ぶ」ことを中心とした,従来,「アウトリーチ」と称されてきた科学コミュニケーションだけでなく,科学者と市民が地震学を「(共に)なす」ことを伴う,言いかえれば,「シチズンサイエンス」として行われる科学コミュニケーションを実現することが,地震学を「オープンサイエンス」として社会に定着させるためには必要であることを指摘した。
著者
矢守 克也
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.198-210, 2007 (Released:2007-09-05)
参考文献数
29
被引用文献数
1 4

本論文は,環境,医療,防災,福祉,土木など多くの分野で,専門家と非専門家(一般の人びと)との間の「対話」が重要視されている現状を踏まえ,新たな対話形態として「終わらない対話」というあり方を提示しようとするものである。まず,「終わらない対話」を実現しようとした具体的な試みとして,矢守・吉川・網代(2005)が開発した「クロスロード」と呼ばれるゲーミング技法について紹介した。次に,歴史的な意味でも論理的な意味でも,「終わらない対話」に先行する対話形式として位置づけることができる「真理へと至る対話」,「合意へと至る対話」の2つに言及し,これら2つの対話形式との異同を通じて「終わらない対話」の性質を明確化した。さらに,「クロスロード」を活用した防災実践活動における対話の特徴をルーマンのリスク論に依拠して考察し,「クロスロード」が「終わらない対話」に結びつく根拠を理論的に示した。最後に,「クロスロード」は,「終わらない対話」のみならず,上述の3つの対話形式をすべて包含した重層的な対話メディアであり,専門家と非専門家との対話には,今後,こうした重層的なメディアやアプローチが不可欠であることを指摘した。
著者
加藤 謙介 渥美 公秀 矢守 克也
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.155-173, 2004 (Released:2004-04-16)
参考文献数
39
被引用文献数
2 2

本研究では,高齢者に対するロボット介在活動(Robot Assisted Activity: RAA)の事例を取り上げ,RAAを,ロボットをめぐる物語の共同的承認の過程であるとして検討した。筆者らは,有料老人ホームに入所する高齢者を対象とした,ペット型ロボットを用いたRAAを実施し,参与観察するとともに,RAA実施中における参加者群の相互作用を,定量的・定性的に分析した。定性的分析の結果,RAA時には,対象となった高齢者のみではなく,施設職員やRAAの進行係等,RAAの参加者全員が,ペット型ロボットの挙動に対して独自の解釈を行い,それを共同的に承認しあう様子が見出された。また,定量的分析の結果,RAA実施中における参加者群の「集合的行動」のうち,最も頻度が多かったのが,「ロボットの動きを参加者群が注視しながら,発話を行う」というパターンであることが明らかになった。筆者らは,RAAを,参加者によるロボットの挙動に対する心の読み取り,及びその解釈の共同的承認を通して物語が生成され,既存の集合性とは異なる集合性,<異質性>が生成される過程であると考察した。
著者
矢守 克也
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.63-81, 2021 (Released:2021-03-04)
参考文献数
52

本論文は,社会心理学における実験的研究について検討した展望論文である。特に,実験の概念をより広義なものへと拡張し,実験という手法が本来有する豊かなポテンシャルをより大きく引き出す方向で,実験社会心理学の領域を再構築することをねらいとした。一般に,典型的な実験室実験と文化・歴史的な視点を重視する現場研究との距離は非常に大きいと見なされている。しかし,中間部に,「アイヒマン実験」や「実験の史学」などを配置すると,両者の連続性を確認できる。その上で,実験社会心理学研究の拡張を2つの方向から構想した。第1は,草創期のグループ・ダイナミックスにおける実験研究がそうであったように,実験室ならではの生態学的特性を活かしつつ,人間の実存性や社会のリアルな生態に接近するための回路を設け,実験室実験に現場研究の長所を取り込む方向性である。第2は,「実験の史学」のように,現実社会を対象とした研究に,実験操作に匹敵する比較条件を設定するための仕組みを導入し,現場研究に実験室実験の美点を取り込む方向性である。こうした志向性を有する具体的な事例を社会心理学,歴史学,防災・減災研究の領域から紹介し,新たな実験社会心理学研究の構想を提示した。
著者
矢守 克也
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.95-114, 2001-07-15 (Released:2010-06-04)
参考文献数
58
被引用文献数
2 2

本稿は, モスコビッシ (S. Moscovici) が提唱した社会的表象理論は, 個別的な対象をターゲットにした個別理論ではなく, 従来の社会心理学理論の多くが, その前提として依拠している認識論-主客2項対立図式-に抜本的な改訂を迫るグランド・セオリーであることを明示し, かつ, そのことを理解する鍵が, 本来, 本理論と一体のものとして提起された社会構成主義の主張を, 徹底した形式で導入することにあることを明らかにしようとするものである。具体的には, 近年, 同理論について精力的に検討しているワーグナー (W. Wagner) の著作を参照しながら, 次の3点について論述した。第1に, 社会的表象が, 認知する主体の「内部」に存在する心的イメージの一種と考える誤解 (第1の誤解) を解消するために, 社会的表象とは, むしろ, 認知される対象であって, 主体の「外部」に存在するものであるとの主張を行なう。第2に, この主張は, 第1の誤解を払拭するために導入した第2の誤解であることを明示し, 両方の誤解をともに解消して, 社会的表象とは, 「外部」に存在する対象そのものではなく, それをそのようなものとして, 主体の前に現出させる「作用」であることを明らかにする。最後に, 上の理解になお残存する第3の誤解-主体だけは, その作用に先だって, 「内部」に自存すると考える誤解-をも解体し, 社会的表象とは, 「内部 (主体) 」と「外部 (対象) 」とが混融した状態から, 両者を分凝的に現出させる「作用」であることを示す。
著者
矢守 克也
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.20-31, 1996-06-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
13
被引用文献数
2 1 6

「災害は忘れたころにやってくる」-この警句は、災害体験がいかに「風化」しやすいかを暗示している。しかし、実際に、「風化」はどのくらいの速度で進むものなのだろうか。また、そのようなことを測定する方法があるのだろうか。本研究は、1982年7月の長崎大水害を事例として、災害の記憶が長期的に「風化」していく過程を、同災害に関する新聞報道量を指標として定量的に測定することを試みたものである。災害を単なる自然現象ではなく、一つの社会的現象としてとらえる立場にたてば、その「風化」についても、それは言語を介した社会的現象の形成・定着・崩壊過程として把握されねばならない。現代においては、マスメディアは明らかにその作業の一翼を担っている。本研究では、被災地の地元地方紙である長崎新聞に掲載された水害関連記事を災害後10年間にわたって追跡し、月ごとの報道量を測定した。その結果、報道量は指数関数的に減少することが見いだされた。ただし、新聞報道量の減少、すなわち、災害の「風化」とは単なる忘却の過程ではない。それは、当該の出来事の意味が人々のコミュニケーションを通してこ・定の方向へと収束し、共有され、定着していく過程でもある。
著者
三隅 二不二 渥美 公秀 矢守 克也
出版者
日本社会心理学会
雑誌
社会心理学研究 (ISSN:09161503)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.11-22, 1989-03-15 (Released:2016-11-23)

The inhabitants' response before and after a landslide disaster was examined. The disaster was characterized by the following three distinctive features. First, in one of the damaged areas, the inhabitants were given, a week in advance, an instruction to evacuate because of an eventual landslide. However, no landslide occurred then. Second, in another damaged area, where no pre-instruction were given, there were 26 victims, while no person was victimized to death in the area mentioned above. Third, some inhabitants constituted a committee to cope with the disaster. We conducted a series of research using face-to-face interview and questionnaire method. 145 of the 241 inhabitants answered the questionnaire. The results showed three major points. First, the instruction for evacuation in the case of pre-landslide, was perceived positively by the inhabitants. Second, some interpersonal networks formed by the inhabitants had much positive effects on their coping with the disaster. Third, the inhabitants tended to believe that the landslide was due more to technical and organizational reasons after and before the disaster than to natural ones.
著者
横尾 泰輔 矢守 克也
出版者
日本災害情報学会
雑誌
災害情報 (ISSN:13483609)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.149-159, 2017 (Released:2021-04-01)
参考文献数
19

東日本大震災で、日本放送協会(NHK)は、巨大地震の発生直後に緊急災害報道を開始し、第1著者は、全国放送のキャスターとして、津波情報の伝達や避難の呼びかけを行った。しかし、多数の住民が、津波到達まで時間的猶予があったにもかかわらず、適切な避難をせずに死亡した。これは、メディア(放送)による情報伝達はできていても、それが住民の避難行動を誘発・促進するのに十分効果のあるものではなかったことを示唆している。本研究では、東日本大震災の初動報道に対応したキャスター当事者の視座から、放送内容および各局面におけるキャスターを取り巻く状況・心理等を自己分析するとともに、放送を視聴・聴取していた住民が、情報をどのように受けとめ、それに基づきどう行動していたかについての聞き取り調査を実施した。その結果、情報の送り手と受け手の間にある認識の相違が明確となった。その上で、住民の避難行動の誘発・促進に資する緊急災害報道の手法として、次の5つの項目を導出した。①インパクトのある表現(強い口調・キーフレーズ)、②発表情報・数値への解釈の付加、③教訓(リアルな事例)を盛り込んだ呼びかけ、④避難行動の段階的アプローチ、⑤津波映像の具体的実況描写と普遍化、である。以上5つの手法を取り入れた緊急災害報道モデルを新たに構築し、訓練等を通じて実践的な考察を試みた。
著者
矢守 克也
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.48-59, 2016

<p>本稿は,アクションリサーチにおける時間性について理論的に検討するものである。アクションリサーチを定義づける変化,目標状態,ベターメントといった特性が共通して前提にしているものこそ,時間だからである。ここで重要なことは,2つの時間系列,すなわち,人間的な実践の外的な枠組みとしての「客観的時間」と,「主体的時間」とのちがいである。「主体的時間」とは,たとえば,「まだ試験終了まで10分以上ある」など,「今はもう」,あるいは「今はまだ」といった,自分自身の営みにおける主体的な構えとともにある時間のことである。「主体的時間」は,既定性(ポスト・フェストゥム)と未定性(アンテ・フェストゥム)という2つの対照的な特性を生み,両者は逆説的なダイナミズムをなしている。さらに,この両者と「客観的時間」における過去・現在・未来とが構成する平面上で展開される〈インストゥルメンタル〉(媒介・手段的)な時間の総体と,それとは対極にある〈コンサマトリー〉(直接・享受的)な時間とが,別の逆説的なダイナミズムをなしている。アクションリサーチでは,これら2組の時間のダイナミズムを,研究者がどのように認識し,かつ自らがその中に巻き込まれつつ,それをいかに構想し運用していくかが重要である。</p>
著者
杉山 高志 矢守 克也
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.si4-6, (Released:2018-06-26)
参考文献数
11
被引用文献数
4

本研究では,東日本大震災の発生以降,日本社会が直面する最大の防災課題として位置づけられた津波からの避難行動を研究対象として,以下のことを示した。まず,避難訓練を支援するために開発したスマートフォンアプリ「逃げトレ」について紹介した。次に,「逃げトレ」が,避難行動の分析・改善の鍵を握る人間系(避難行動)と自然系(津波挙動)との相互関係を,実際に避難する当事者に対して可視化するためのインタラクション表現ツールであることを示した。その上で,「逃げトレ」の効果性,とりわけ,これまでの避難対策や手法―たとえば,ハザードマップや従来型の集団一斉訓練など―に対する優位性を,「コミットメント」(特定のシナリオを絶対視し,そこに没入する傾向性)と「コンティンジェンシー」(それを相対視し,そこから離脱する傾向性)を鍵概念として明らかにした。最後に,人間科学と自然科学の性質のちがいにも言及しながら,「逃げトレ」が担保する「コミットメント」と「コンティンジェンシー」の相乗作用は,「想定外」に対する対応原理としても重要であることを指摘した。
著者
李 旉昕 宮本 匠 矢守 克也
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.1608, (Released:2018-09-19)
参考文献数
27
被引用文献数
1

災害復興に関する課題として,復興に対する支援が十分に提供されるために,かえって復興の当事者たるべき被災地住民から「主体性」を奪ってしまう課題を指摘できる。支援者と被災住民の間に〈支援強化と主体性喪失の悪循環〉が生じてしまうという課題である。ここで「主体性」とは,当事者が抱える問題や悩みを外部者が同定するのではなく,当事者が自ら問い,言語化し,解決しようとする態度のことである。本研究では,東日本大震災の被災地である茨城県大洗町において,「クロスロード:大洗編」という名称の防災学習ツールを被災地住民が自ら制作することを筆者らが支援することを中心としたアクションリサーチを通して,この悪循環を解消することを試み,浦河べてるの家が推進する「当事者研究」の視点から考察した。第1に,「クロスロード」を作成する作業を通じて,一方に,〈問題〉について「主体的に」考える被災地住民が生まれ,他方に,当事者とは切り離された客体的な対象としての〈問題〉が対象化されている。第2に,「クロスロード」として表現された〈問題〉は,多くの人が共有しうる,より公共的な〈問題〉として再定位される。最後に,一連のプロセスに外部の支援者である筆者らが果たした役割と課題について考察した。
著者
矢守 克也 飯尾 能久 城下 英行
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.2009, (Released:2020-12-24)
参考文献数
42

巨大災害による被害,新型感染症の世界的蔓延など,科学(サイエンス)と社会の関係の問い直しを迫られる出来事が近年相次いでいる。本研究は,このような現状を踏まえて,地震学をめぐる科学コミュニケーションを事例に,「オープンサイエンス」を鍵概念として科学と社会の関係の再構築を試みようとしたものである。本リサーチでは,大学の付属研究施設である地震観測所を地震学のサイエンスミュージアム(博物館施設)としても機能させることを目指して,10年間にわたって実施してきたアクションリサーチについて報告する。具体的には,「阿武山サポーター」とよばれる市民ボランティアが,ミュージアムの展示内容に関する「解説・観覧」,地震活動の「観測・観察」,および,その結果得られた地震データ等の「解析・解読」,以上3つの側面で地震学に「参加」するための仕組みを作り上げた。以上を踏まえて,「学ぶ」ことを中心とした,従来,「アウトリーチ」と称されてきた科学コミュニケーションだけでなく,科学者と市民が地震学を「(共に)なす」ことを伴う,言いかえれば,「シチズンサイエンス」として行われる科学コミュニケーションを実現することが,地震学を「オープンサイエンス」として社会に定着させるためには必要であることを指摘した。
著者
矢守 克也
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.1-15, 2001-12-25 (Released:2010-06-04)
参考文献数
45
被引用文献数
4 1

阪神・淡路大震災の後, それまで, 特殊な専門用語に過ぎなかった「活断層」という言葉が, 広く人々に知られるようになった。本研究は, 社会的表象理論 (Moscovici, 1984) に依拠して, この言葉が, 地震にともなう新奇な事象を「馴致 (familiarize) 」し, 人々の日常世界に取り込まれる過程について検討した。この目的のため, 新聞, 雑誌に掲載された関連報道の内容分析を行ない, Moscoviciが提起した2つの馴致メカニズム-係留 (anchoring) と物象化 (objectification) -のそれぞれについて実証的に検討した。具体的には, 係留過程については「活断層」に関する比喩表現の分析に, 物象化過程については地震前兆証言の分析に焦点をあてた。この結果, 特に, 地震前兆証言は, その独特の発話形式 (回顧的発話形式) に負うて, 社会的表象研究が抱える困難-社会的表象が確立した時点で, 未確立の時点における様相を記述することの原理的困難-を克服する有力な研究対象の一つであることを示唆した。さらに, 社会的表象の概念と認知社会心理学的な諸概念との異同についても論じた。