著者
緒方 悠一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
雑誌
九州理学療法士学術大会誌 九州理学療法士学術大会2021 (ISSN:24343889)
巻号頁・発行日
pp.71, 2021 (Released:2022-02-03)

【目的】簡易的な方法で転倒リスクを評価・予測する【はじめに】要介護状態の主要な原因の一つである転倒1)は、諸々の要因が相互に影響することが知られており2)転倒リスクを評価することは極めて重要である。そこで、記述式の評価用紙を用いて簡易的に転倒リスクを評価・予測できる方法を検討した。【対象および方法】対象は、社会医療法人玄州会パワーリハビリセンター利用中の42 名とした。全員が地域支援事業対象者であった。対象者には本研究の内容を十分に説明し、紙面にて同意を得た。なお、本研究は、当法人の倫理審査委員会の承認を得て実施した。å 方法は記述式の評価用紙を用いた。転倒リスクについては、高齢者の転倒リスク簡易評価表3)を用い、7点以上を高い群、6点以下を低い群とした。評価スケールは服薬中の薬数、HLS-14、Home-ExerciseBarrierSelf-EfficacyScale、生活の広がり、転ばない自信、自宅での入浴動作、休まずに歩ける距離、人とのつながり、Motor Fitness Scale(以下、MFS)を使用した。なお、統計学的解析はSPSS で二項ロジスティック分析を用い、有意水準は5% とした。【結果】二項ロジスティック分析の結果、転倒リスクに有意な関連因子としては、MFS(オッズ比0.704、95% 信頼区間0.539-0.920)が抽出され、その他の項目に関して有意性は得られなかった。また、判別の的中率は77.1%、Hosmer とLemeshow の検定による有意確率0.7 であった。【考察】MFS は、衣笠らが開発した要介護認定リスクを予測するツールである。細川らは、体力検査を行わなくても転倒の発生を予知できる可能性があると述べている。4)本研究では、地域支援事業対象者42 名に対し記述式の評価用紙にて回答を得た。その結果、MFS が転倒リスクを予測する指標となることが示唆された。転倒に関する大規模研究のレビューを行ったルベンスタインは、筋力低下、バランス欠如、歩行障害、移動障害、ADL 障害は殆どすべての研究で一致した危険因子であると述べている5)。MFS は移動、筋力、バランスなどの身体機能を主に評価しており、ルベンスタインが述べた危険因子と考えられる要因を全て評価できるため有意性が出たのではないかと考える。【まとめ】MFS を使用し転倒リスク評価を行った結果、有用性のある指標であると考えられる。また記述式の評価となるため、転倒予防教室において理学療法士1名が対応できる参加人数の拡大が期待できる。【文献】1)厚生労働省「国民生活基礎調査」2019 年2)日本転倒予防学会誌Vol.3 No3:5-10 20173)鳥羽研二他 日老医誌2005:42:346-3524)細川 徹,長崎 浩,衣笠 隆・他:高齢者におけるMotor Fitness Scaleと体力測定との関係.厚生省長寿科学総合研究,1998, 135-1385)Rubenstein LZ:Falls.In:Yoshikawa TT eds. Amebula-tory Geriatric Care:1993【倫理的配慮,説明と同意】本研究の立案に際し、事前に所属施設の倫理審査委員会の承認を得た。(承認日2019 年9 月2 日)。また研究の実施に際し、対象者には本研究の内容を十分に説明し、紙面にて同意を得た。
著者
大浦 洋一 小西 隆洋 井手 満雄 森田 正治
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
雑誌
九州理学療法士学術大会誌 九州理学療法士学術大会2021 (ISSN:24343889)
巻号頁・発行日
pp.16, 2021 (Released:2022-02-03)

【はじめに】今後さらに高齢化が進むわが国において健康寿命を延ばすことが課題となっており、その一つとして高齢者の社会参加が注目されている。社会参加には健康増進活動、ボランティア活動、地域活動など様々あるが、地域高齢住民を対象とした先行研究において、社会参加の機会を有する高齢者は、そうでない高齢者に比べ認知機能が高く、フレイル(虚弱)の割合が低いことが報告されている。しかし、生きがいとの関連については十分に明らかにされておらず、過去に科学的根拠を整理した研究はほとんどない。筆者らが行った研究では健康増進活動を主とした社会参加活動について生きがいは有益な効果があると結論付けたが、具体的な要因は何であるのか、生きがいの構成4 因子(生活充実感・存在感・自己実現意欲・生きる意欲)と社会参加活動との関連を言及するまでには至っていない。本研究では当院通所リハビリテーション利用者を対象とした質問紙調査の結果をもとに、社会参加と生きがいの主要因について関連を検討する。【方法】本研究は2020 年11 月から2021 年2 月までの当院通所リハビリテーションを利用する65 歳以上の要支援者24 名(男性10 名、女性14 名)とし、対象者に質問紙調査を実施した。生きがい評価として、生きがい感スケール(16項目4 因子(1)自己実現と意欲(2)生活充実感(3)生きる意欲(4)存在感)を使用した。満点は32 点、カットオフ値を17 点とし、統計解析はWindows 版SPSS24 を用い、Mann-WhitneyU 検定により、生きがい感との関連を確認した。また、社会参加項目(年齢、性別、配偶者、家族形態、健康状態、暮らしぶり、外出頻度、外出手段)についても比較検討を行なった。なお、有意水準は5%とした。【結果】対象は生きがい高い群(A 群)が15 名、生きがい低い群(B 群)が9 名で、参加者の多くが81 歳から90 歳の後期高齢者であった。A 群は男性3名、女性12 名であり、B 群は男性7 名、女性2 名であった。2 群間の男女割合としてA 群は女性が有意に高く、B 群は男性が有意に高かった。生きがい感は、自己実現因子にける「心のよりどころ(P=0.001)」、「向上したと思える(P=0.002)」、「他人から評価されている(P=0.014)」、「何か成し遂げた(P=0.034)」、存在感因子における「私がいなければだめだ(P=0.047)」、「世の中や家族のために役に立っている(P=0.025)」、「家族や他人から期待されている(P=0.025)」の因子において生きがい感との間に有意な関連性を認めたが、他の生活充実感と生きる意欲との間には関連を認めなかった。【考察】地域で生活している虚弱高齢者の生きがい要因を確認することは地域包括ケアシステムを機能させる上で意義があると考える。本研究の結果から、A 群では多くが女性に日常生活活動を向上・維持したいという意欲が受動的に見られ、特にその要因として自己実現因子と存在感因子を主としていた。高齢者の老年期は生きがい感を喪失しやすい危機に直面するものの、新たな生きがい感の源泉や対象を見出すことで再獲得できる力を持つと考えられている。本研究では家庭内役割の中で、生きがい感を獲得することで、自律した社会参加能力を得ることが可能であると考える。【まとめ】生きがい感が高い対象者は家庭内役割を獲得し、自律して活動する社会参加能力が高いことが認められた。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は所属施設の倫理審査委員会の承認(渡整第2020-1101 号)後、対象者に書面及び口頭にて十分な説明を行い、同意を得た上で実施した。また、本研究において開示すべき利益相反はない。