著者
大西 琴乃 烏山 昌起 河上 淳一 濵本 明日香
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
雑誌
九州理学療法士学術大会誌 九州理学療法士学術大会2022 (ISSN:24343889)
巻号頁・発行日
pp.4, 2022 (Released:2022-11-29)

【目的】ストレッチングは傷害予防や健康維持・向上など幅広く活用される. 先行研究では, ストレッチングと温熱療法の同時施行はストレッチング単独と比べて柔軟性が向上すると報告されており, 加温効果の併用は効率的な介入手段と考えられる. この加温効果を日常生活で簡便に利用できる手段として“入浴”が挙げられ, 臨床の指導においても入浴後のストレッチングを推奨する場面は多く見受けられる. しかし, これまでに入浴後のストレッチング効果を検証した報告は散見されず, その有効性は不明である. そこで,本研究の目的は入浴前後のストレッチングが柔軟性に与える影響を比較検討することである.【方法】本研究はCONSORT 声明に準拠した. 対象は研究協力が得られた健常成人20 名( 男性14名,女性6名,平均年齢21.6 歳) であった。群の割り付けは単純ランダム割り付け法を採用し, 本研究の評価に関与しない者が入浴前ストレッチング群(以下; 入浴前群)10名と入浴後ストレッチング群(以下; 入浴後群)10 名に割り付けた. 介入はハムストリングスの伸張性向上を目的としたストレッチングとし, 伸張時間30秒3セットを5日間実施した.対象者には介入期間中に本研究以外のストレッチングや下肢の激しい運動を控えるように指示した. 入浴後群の入浴時間は10 分以上, 温度は38 度~42度,ストレッチングのタイミングは入浴後12 分以内とした. 評価項目は, 背臥位股関節90°屈曲位での膝関節伸展角度とし, 角度測定はデジタル傾斜計DL-155V を用いた. なお, 評価者2 名は対象者が入浴前群・入浴後群のいずれの割り付けか分からない状態( 盲検化) とした. 統計は介入前後の群内比較はWilcoxon 符号順位検定, 群間比較はMannWhitney U 検定を用いた. また, 事後分析として検出力を算出した. 有意水準は全て5%とした.【結果】本研究は計19 名( 入浴前群1 名は他の介入を受け除外) が全ての介入を完了した. 入浴後群の膝関節伸展角度は, 介入前後(pre 26.4 ± 11°, post18.4 ± 11°) で有意な改善を認めた(p=0.03). 一方, 入浴前群の膝関節伸展角度は, 介入前後(pre 33.4 ± 10°, post 28.7 ± 8°) で有意差を認めなかった(p=0.11). さらに, 介入後の膝関節伸展角度は, 入浴後群(18.4 ± 11°) は入浴前群(28.7 ± 8°) と比較して有意に低値であった(p<0.01). 事後分析の結果, 検出力は0.93 であった.【考察】本研究は, 入浴後群の膝関節伸展角度は入浴前群と比べて有意な改善を認めた. その理由として, 疼痛閾値の上昇が挙げられる. 入浴の温熱刺激を加えたことで, ゲートコントロール理論に基づきストレッチング時の伸張痛が軽減することが予想される. その結果, 入浴後群は入浴前群と比較してより強度のストレッチングを行えるようになり, 膝関節伸展角度が向上したと推測した. さらに, 入浴に伴う加温効果によって筋温に変化が生じ, 柔軟性に寄与した可能性も考えられる. これらの要因によって, 入浴後群は入浴前群よりストレッチング効果が得られたと推測された.【結論】本研究は, “入浴後におけるストレッチング指導”の有用性を支持する結果であり, 入浴後のストレッチングは柔軟性の改善に効果的な手段と示唆された.【倫理的配慮,説明と同意】本研究は倫理委員会( 番号2124 号) の承認を得ている.
著者
緒方 悠一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
雑誌
九州理学療法士学術大会誌 九州理学療法士学術大会2021 (ISSN:24343889)
巻号頁・発行日
pp.71, 2021 (Released:2022-02-03)

【目的】簡易的な方法で転倒リスクを評価・予測する【はじめに】要介護状態の主要な原因の一つである転倒1)は、諸々の要因が相互に影響することが知られており2)転倒リスクを評価することは極めて重要である。そこで、記述式の評価用紙を用いて簡易的に転倒リスクを評価・予測できる方法を検討した。【対象および方法】対象は、社会医療法人玄州会パワーリハビリセンター利用中の42 名とした。全員が地域支援事業対象者であった。対象者には本研究の内容を十分に説明し、紙面にて同意を得た。なお、本研究は、当法人の倫理審査委員会の承認を得て実施した。å 方法は記述式の評価用紙を用いた。転倒リスクについては、高齢者の転倒リスク簡易評価表3)を用い、7点以上を高い群、6点以下を低い群とした。評価スケールは服薬中の薬数、HLS-14、Home-ExerciseBarrierSelf-EfficacyScale、生活の広がり、転ばない自信、自宅での入浴動作、休まずに歩ける距離、人とのつながり、Motor Fitness Scale(以下、MFS)を使用した。なお、統計学的解析はSPSS で二項ロジスティック分析を用い、有意水準は5% とした。【結果】二項ロジスティック分析の結果、転倒リスクに有意な関連因子としては、MFS(オッズ比0.704、95% 信頼区間0.539-0.920)が抽出され、その他の項目に関して有意性は得られなかった。また、判別の的中率は77.1%、Hosmer とLemeshow の検定による有意確率0.7 であった。【考察】MFS は、衣笠らが開発した要介護認定リスクを予測するツールである。細川らは、体力検査を行わなくても転倒の発生を予知できる可能性があると述べている。4)本研究では、地域支援事業対象者42 名に対し記述式の評価用紙にて回答を得た。その結果、MFS が転倒リスクを予測する指標となることが示唆された。転倒に関する大規模研究のレビューを行ったルベンスタインは、筋力低下、バランス欠如、歩行障害、移動障害、ADL 障害は殆どすべての研究で一致した危険因子であると述べている5)。MFS は移動、筋力、バランスなどの身体機能を主に評価しており、ルベンスタインが述べた危険因子と考えられる要因を全て評価できるため有意性が出たのではないかと考える。【まとめ】MFS を使用し転倒リスク評価を行った結果、有用性のある指標であると考えられる。また記述式の評価となるため、転倒予防教室において理学療法士1名が対応できる参加人数の拡大が期待できる。【文献】1)厚生労働省「国民生活基礎調査」2019 年2)日本転倒予防学会誌Vol.3 No3:5-10 20173)鳥羽研二他 日老医誌2005:42:346-3524)細川 徹,長崎 浩,衣笠 隆・他:高齢者におけるMotor Fitness Scaleと体力測定との関係.厚生省長寿科学総合研究,1998, 135-1385)Rubenstein LZ:Falls.In:Yoshikawa TT eds. Amebula-tory Geriatric Care:1993【倫理的配慮,説明と同意】本研究の立案に際し、事前に所属施設の倫理審査委員会の承認を得た。(承認日2019 年9 月2 日)。また研究の実施に際し、対象者には本研究の内容を十分に説明し、紙面にて同意を得た。
著者
大浦 洋一 小西 隆洋 井手 満雄 森田 正治
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
雑誌
九州理学療法士学術大会誌 九州理学療法士学術大会2021 (ISSN:24343889)
巻号頁・発行日
pp.16, 2021 (Released:2022-02-03)

【はじめに】今後さらに高齢化が進むわが国において健康寿命を延ばすことが課題となっており、その一つとして高齢者の社会参加が注目されている。社会参加には健康増進活動、ボランティア活動、地域活動など様々あるが、地域高齢住民を対象とした先行研究において、社会参加の機会を有する高齢者は、そうでない高齢者に比べ認知機能が高く、フレイル(虚弱)の割合が低いことが報告されている。しかし、生きがいとの関連については十分に明らかにされておらず、過去に科学的根拠を整理した研究はほとんどない。筆者らが行った研究では健康増進活動を主とした社会参加活動について生きがいは有益な効果があると結論付けたが、具体的な要因は何であるのか、生きがいの構成4 因子(生活充実感・存在感・自己実現意欲・生きる意欲)と社会参加活動との関連を言及するまでには至っていない。本研究では当院通所リハビリテーション利用者を対象とした質問紙調査の結果をもとに、社会参加と生きがいの主要因について関連を検討する。【方法】本研究は2020 年11 月から2021 年2 月までの当院通所リハビリテーションを利用する65 歳以上の要支援者24 名(男性10 名、女性14 名)とし、対象者に質問紙調査を実施した。生きがい評価として、生きがい感スケール(16項目4 因子(1)自己実現と意欲(2)生活充実感(3)生きる意欲(4)存在感)を使用した。満点は32 点、カットオフ値を17 点とし、統計解析はWindows 版SPSS24 を用い、Mann-WhitneyU 検定により、生きがい感との関連を確認した。また、社会参加項目(年齢、性別、配偶者、家族形態、健康状態、暮らしぶり、外出頻度、外出手段)についても比較検討を行なった。なお、有意水準は5%とした。【結果】対象は生きがい高い群(A 群)が15 名、生きがい低い群(B 群)が9 名で、参加者の多くが81 歳から90 歳の後期高齢者であった。A 群は男性3名、女性12 名であり、B 群は男性7 名、女性2 名であった。2 群間の男女割合としてA 群は女性が有意に高く、B 群は男性が有意に高かった。生きがい感は、自己実現因子にける「心のよりどころ(P=0.001)」、「向上したと思える(P=0.002)」、「他人から評価されている(P=0.014)」、「何か成し遂げた(P=0.034)」、存在感因子における「私がいなければだめだ(P=0.047)」、「世の中や家族のために役に立っている(P=0.025)」、「家族や他人から期待されている(P=0.025)」の因子において生きがい感との間に有意な関連性を認めたが、他の生活充実感と生きる意欲との間には関連を認めなかった。【考察】地域で生活している虚弱高齢者の生きがい要因を確認することは地域包括ケアシステムを機能させる上で意義があると考える。本研究の結果から、A 群では多くが女性に日常生活活動を向上・維持したいという意欲が受動的に見られ、特にその要因として自己実現因子と存在感因子を主としていた。高齢者の老年期は生きがい感を喪失しやすい危機に直面するものの、新たな生きがい感の源泉や対象を見出すことで再獲得できる力を持つと考えられている。本研究では家庭内役割の中で、生きがい感を獲得することで、自律した社会参加能力を得ることが可能であると考える。【まとめ】生きがい感が高い対象者は家庭内役割を獲得し、自律して活動する社会参加能力が高いことが認められた。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は所属施設の倫理審査委員会の承認(渡整第2020-1101 号)後、対象者に書面及び口頭にて十分な説明を行い、同意を得た上で実施した。また、本研究において開示すべき利益相反はない。
著者
小山 了
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
雑誌
九州理学療法士学術大会誌 九州理学療法士学術大会2019 (ISSN:24343889)
巻号頁・発行日
pp.101, 2019 (Released:2019-12-11)

【目的】本院では圧迫骨折や脊柱管狭窄症の保存療法患者に対し、治療の第一選択としてコルセットを装着し、不安定となっている骨折部の固定を行うことで、早期離床を可能とし、不動による筋萎縮・骨萎縮を予防する方法をとる事が多い。しかし、コルセット装着時の欠点として受動的に脊柱・骨盤帯の安定化が図られる為、体幹筋の働きが代償され、体幹筋の活動量の低下がおこることが考えられる。コルセット着用時の筋活動量についての報告が散見されるが、筋量または筋細胞の質的変化を検証したものは少ない。体組成計in body770にて計測可能な位相角は、細胞の栄養状態や老化程度を表す指標として使用されており、慢性疾患患者における重症度の評価に用いられている。本研究の目的は、コルセットの有無が筋量または筋細胞の質的変化にどう影響するのか位相角を用いて検証し、臨床の治療に活かすことである。【方法】 対象は、◯◯に入院または通院されたことのあるダーメンコルセット着用者35名(男性9名、女性26名、平均 79.7±12.5歳)とダーメンコルセット未着用者32名(男性8名、女性24名、平均79.4±12.0歳)とし、体組成計in body770を用い、位相角、筋肉量体重比(以下、%MV)、体幹筋量を測定した。統計処理にはSPSS ver25を使用し、コルセット着用患者とコルセット未着用患者の比較にはマンホイットニーのU検定を用いた。有意水準はいずれも5%未満とした.【結果】 コルセット着用者の入院当初の体幹筋量は15.1±3.98、2か月後は15.0±4.02であり、有意差は認められなかった。また、入院当初の位相角は3.9±0.79、2か月後は3.9±0.82であり有意差は認められなかった。コルセット未着用者の体幹筋量は入院時で14.9±3.15、2か月後の体幹筋量は15.0±3.30であり有意差は認められなかった。【考察】 今回の検証においてコルセット着用群・未着用群ともに、2か月間では体幹筋量や位相角に大きな変化はみられなかった。しかし、今回の課題として入院中のリハビリ介入を行っていたことを考慮されておらず、コルセット着用患者は、比較的体幹トレーニングを、コルセット未着用患者は下肢トレーニングを中心にリハプログラムを組む行う傾向にあった。そのことが筋量・位相角の変化がみられなかった要因とも考えられる。【まとめ】 コルセットの有無に関わらず、2か月間という期間では体幹筋量・位相角の著名な変化は見られなかった。【今後の展望】今後は、統一したリハプログラムでの検証や部位別の位相角、日中の運動量・血液データを加味し、継続した検討を行っていく。 【倫理的配慮,説明と同意】福岡県済生会大牟田病院の倫理委員会の承諾を得た上で,ヘルシンキ宣言に基づき全ての被験者には動作を口頭で説明するとともに実演,同意を得たのちに検証を行った
著者
槌野 正裕 荒川 広宣 小林 道弘 清田 大喜 岩下 知裕 堀内 大嗣 中島 みどり 高野 正太
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
雑誌
九州理学療法士学術大会誌 九州理学療法士学術大会2019 (ISSN:24343889)
巻号頁・発行日
pp.45, 2019 (Released:2019-12-11)

【はじめに】当院は大腸肛門病センターとして、大腸、肛門の器質的疾患や直腸肛門の機能障害に対しての診断・治療を行おり、リハビリテーション科は、便秘や便失禁症例に対する直腸肛門機能訓練に取り組んでいる。便失禁症は、2017年に発刊された便失禁診療ガイドラインによると、65歳以上の有症率は男性8.7%、女性6.6%とされており、専門的な保存治療の一つに骨盤底筋群に対するバイオフィードバック(biofeedback:BF)療法が行われ、治療の有効率は70%前後と報告されている。当院でも便失禁症例に対しては筋電図BF療法を用いているが、収縮方法を獲得できない症例を経験する。このように通常のBF療法では骨盤底筋群の収縮を獲得できない症例に対して、内閉鎖筋膜は肛門挙筋に起始を与えると報告されていることから、股関節外旋筋の収縮をさせることで骨盤底筋群の一つである外肛門括約筋の収縮を得ることが出来るのではないかと考え、検討を開始(第6回運動器理学療法学会で報告)した。今回、外旋筋を用いた骨盤底筋収縮に関する検討を継続した結果を報告する。【対象と方法】2018年5月から12月に当院で骨盤底筋群に対するBF療法を行った症例の中で無作為に選出した26例(男性4例、女性22例、平均年齢66.7±17.0歳)を対象とした。対象者の受診動機は、便秘14例、便失禁18例、その他3例(重複あり)であった。方法は、対象者をシムス体位(左側臥位)とさせ、検査者が外肛門括約筋に電極(幅5mm)が密着するように棒型双極電極を肛門に挿入する。筋電図(日本光電社製 MEB-9400シリーズ)を用いて外肛門括約筋収縮時の積分値(S:squeeze)を安静時の積分値(R:rest)で除した値(S/R)を外肛門括約筋の収縮力とした。次に対象者を腹臥位とし、股関節中間位、膝関節90°屈曲位から両側の踵部を合わせるように股関節外旋筋の収縮を促し、外肛門括約筋のS/Rを求めてシムス体位との収縮力の違いを比較した。統計学的処理にはWilcoxsonの符号順位検定を用いて検討した。【結果】外肛門括約筋の収縮力S/Rは、シムス体位の2.95(1.68~7.67)に対して腹臥位での股関節外旋筋収縮では4.80(2.32~7.70)と有意(p < 0.01)に収縮力は強くなった。しかし、外旋筋の収縮よりもシムス体位での収縮力が強い症例を4例に認めた。3例は外旋筋の収縮を行わせた方がシムス体位よりも持続収縮が可能であり、1例は安静時の活動電位も高まっていたため、収縮力としては低下していた。【考察】内閉鎖筋と肛門挙筋の関係に関しては様々な報告が散見されるが、臨床的には股関節外旋筋の収縮を促すと、肛門は腹側へ引き込まれるように動くのが確認される。内閉鎖筋膜は肛門挙筋に起始を与えており、内閉鎖筋は骨盤底において肛門挙筋と密接な関係にあるとの報告(田巻ら)から、骨盤底筋群に対するBF療法の効果を高める事が期待できると考えられる。【倫理的配慮,説明と同意】【倫理的配慮、説明と同意】当研究は、大腸肛門病センター高野病院倫理委員会の許可(第18-03番)を得て、充分な倫理的な配慮を行い実施した。