著者
多和田 裕司
出版者
大阪市立大学大学院文学研究科
雑誌
人文研究 : 大阪市立大学大学院文学研究科紀要 (ISSN:04913329)
巻号頁・発行日
vol.68, pp.25-41, 2017

本稿は、マレー系ムスリムの行動についての分析をもとに、現代社会においてイスラームがどのように実践されているかを示すことを目的としている。イスラームは、おこなうべきこと、おこなうことが許されていること、禁じられていることが明確に区分されている宗教である。しかし現代社会においては、この区分についてムスリムの間で様々に意見が分かれる事柄が数多く存在する。これは、とくにイスラーム教義と非イスラーム的価値との境界線上にある事柄に顕著である。そのひとつが、ムスリムがクリスマスの祝祭に参加できるか否かをめぐっての論争である。ムスリムのなかには「メーリー・クリスマス」という祝賀を述べることすら禁じる者がいる一方で、参加することを問題視しない者も多い。本稿では、マレーシアにおいて近年交わされたムスリムによるクリスマス行事への参加をめぐる論争を取り上げ、イスラームの権威者および一般のムスリムの意見について検討する。結論として、マレー系ムスリムの行動はイスラーム教義だけではなく、イスラームの外側に派生する多民族性や消費社会における経済的論理といった要因によっても、形作られていることを指摘する。