著者
多和田 裕司
出版者
日本文化人類学会
雑誌
民族學研究 (ISSN:24240508)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.1-19, 1991-06-30 (Released:2018-03-27)

本論文,マレーシア・クランタン州におけるマレー系村落での実地調査に基づき,村落におけるリーダーシップの検討を通して,何がマレー・リーダーシップの基盤に存在しているのかを分析する。そのさい,ひとりのプンフル(村落レベルでのリーダー)の姿を具体的に描き出すことによって,従来の社会構造論的,機能論的研究においては見逃されてきた文化的な「力」がリーダーシップを構成する力として存在することを指摘する。
著者
多和田 裕司
出版者
大阪市立大学大学院文学研究科
雑誌
人文研究 : 大阪市立大学大学院文学研究科紀要 (ISSN:04913329)
巻号頁・発行日
vol.68, pp.25-41, 2017

本稿は、マレー系ムスリムの行動についての分析をもとに、現代社会においてイスラームがどのように実践されているかを示すことを目的としている。イスラームは、おこなうべきこと、おこなうことが許されていること、禁じられていることが明確に区分されている宗教である。しかし現代社会においては、この区分についてムスリムの間で様々に意見が分かれる事柄が数多く存在する。これは、とくにイスラーム教義と非イスラーム的価値との境界線上にある事柄に顕著である。そのひとつが、ムスリムがクリスマスの祝祭に参加できるか否かをめぐっての論争である。ムスリムのなかには「メーリー・クリスマス」という祝賀を述べることすら禁じる者がいる一方で、参加することを問題視しない者も多い。本稿では、マレーシアにおいて近年交わされたムスリムによるクリスマス行事への参加をめぐる論争を取り上げ、イスラームの権威者および一般のムスリムの意見について検討する。結論として、マレー系ムスリムの行動はイスラーム教義だけではなく、イスラームの外側に派生する多民族性や消費社会における経済的論理といった要因によっても、形作られていることを指摘する。
著者
多和田 裕司
出版者
大阪市立大学大学院文学研究科
雑誌
人文研究 : 大阪市立大学大学院文学研究科紀要 = Studies in the humanities : Bulletin of the Graduate School of Literature and Human Sciences, Osaka City University (ISSN:04913329)
巻号頁・発行日
vol.69, pp.41-58, 2018

本稿は、臓器移植にかんするイスラームの倫理を検討することによって、現代社会においてイスラームがどのように実践されているかを示すことを目的としている。臓器移植は、コーランとハディース(ムハンマドの言行録)に基づくイスラームの伝統的な死生観にたいして倫理的な課題を突きつけてきた。しかし医療技術の進歩とそれによって得られる治療成果の高まりにともない、いまや世界中のイスラーム法学者の大半は、人体から人体への臓器移植をイスラームの教義からみて許されるものとしてとらえている。本稿では、イスラーム世界で臓器移植を肯定的にとらえる代表的なファトワ(イスラームにおける法的勧告)を紹介した後、臓器移植にかんするマレーシアの医療ガイドラインと同国におけるイスラームの権威が発したファトワを比較検討する。結論として、イスラームは、現代の生命倫理と共通する価値を持つ可能性を有していることが示される。イスラームは、イスラーム教義と非イスラーム的な価値が出会う境界上で、つねに現代社会に、より適合的な宗教へと変容を続けているのである。