著者
坂井 祐円
出版者
仁愛大学
雑誌
仁愛大学研究紀要. 人間学部篇 = Research journal of Jin-Ai University, Faculty of Human Studies (ISSN:21853355)
巻号頁・発行日
no.21, pp.35-46, 2023-02-20

われわれはどこから来たのか? この問いかけは「魂」のあり方について示唆している.誕生の記憶についての物語は,この問いへの一つの指標になり得るのではないか.そして,ここには魂の癒しとしてのスピリチュアルケアを見出すことができるのではないか.こうした観点から,本稿では,誕生の記憶として分類される, 出生時記憶, 胎内記憶, 中間生記憶の語りについて,それぞれ事例を挙げながら考察していく. まず一般的な自分の由来を探るという意味で,身体の起源について遡って考えてみる.その上で,果たして身体が〈私〉なのか,〈私〉の本質はいわゆる「魂」なのではないのかという観点に立って,その起源を追求する.手がかりになるのが,幼児期健忘によって覚えているはずがない誕生の記憶である.とりわけ身体を持たない純粋な「魂」のみの記憶である中間生記憶の語りからは,現代の神話とも言える魂の起源を考えることができ,私たちの生きる意味を見出すことにも通じることを明らかにする.