著者
森田 毅 中嶋 一彦 肥塚 浩昌 下山 孝 田村 俊秀
出版者
兵庫医科大学
雑誌
兵庫医科大学医学会雑誌 (ISSN:03857638)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.13-27, 2003-04-25

Helicobacter pylori (H. pylori)の主なvirulence factorとしてcag PAI (cag pathogenicity island)が挙げられている.cagPAI は作用物質であるCagA蛋白質と,それを感染宿主に注入するtypeIVsecretion systemから成る.後者を形成する遺伝子群の一つ,cagBはcagAとそれぞれのプロモーターが相接してcagA-cagB間隙(cagA/B)を形成しており,CagA蛋白質とそのsecretion systemの相互関係を,本菌の疾患との関連において知り得るに適していると考えた. そこでcagA/Bを兵庫医大臨床分離株36株,欧米登録株2株とのデーターベース上で全塩基配列が引用される26695株を基準として比較検討した.その結果次のことが判明した.(1) H. pyloriのcagA/B約400bpの"long type"と約250bpの"short type"に大別され,本邦分離株はほとんど"short type"である.またいくつかの塩基欠損の部位により11typeにわけられる.(2) cagA/B間にcagAの転写開始点は2ケ所,cagBの転写開始点は1ケ所見出された.また-10コンセンサス部位は認められたものの,-35は明らかでなかった.(3) β-galactosidase (lacZ)によるプロモーターアッセイでは,cagA, cagB菌株間に顕著な差異が認められた.(4) cagA, cagB変異株,野生株いずれの株においてもcag PAIの他の遺伝子(cagC, cagD)を発現しcagAまたはcagB欠損の影響はみられなかった.cagA/Bプロモーター領域は全cagPAIの一部ではあるが,株間の構造,活性に大きな差があり,cagPAIの多様性を示唆するものである.また,さまざまなH. pyloriに由来される疾患とcagA/Bの多様性の間に優位の関連性は認めがたく,cagPAIは宿主とあいまって,病原性よりも病原修飾因子として論議すべきであると推察する.
著者
後藤 章暢
出版者
兵庫医科大学
雑誌
兵庫医科大学医学会雑誌 (ISSN:03857638)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.45-48, 2007-12

21世紀の新しい治療法として期待を集めてきた遺伝子治療法は,難治性疾患の夢の治療法という考え方から,より現実的な治療技術の一つとして発展しつつある.従来の治療法で効果のなかつた疾患に対し,根治はできないまでも,ある程度の治療効果をあげたり,従来の治療法と同等の治療効果をより少ない副作用で実現したりすることは十分可能であると考えられる.泌尿器科癌における遺伝子治療臨床研究は欧米を中心に行われており,米国では泌尿器科癌に対し,現在90以上の遺伝子治療臨床研究プロトコールが進行しているが,本邦では3つの遺伝子治療臨床研究にすぎない.本稿では,私のグループがこれまでに行ってきた,前立腺癌を対象とした遺伝子治療臨床研究の取り組みについて解説した.
著者
笹原 祐介 喜多野 征夫 家本 敦子 吉川 良恵 中野 芳朗 森永 伴法 竹内 勝之 川真田 伸 村上 能庸 玉置(橋本) 知子
出版者
兵庫医科大学
雑誌
兵庫医科大学医学会雑誌 (ISSN:03857638)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.95-104, 2007-12

我々は抜去した毛髪の毛包からケラチノサイトの培養を試み,培養法を確立するとともに得られたケラチノサイトの特性を検討した.このケラチノサイトは毛包バルジ部分に存在するバルジ幹細胞に由来するとされている.成人ボランティアよりインフォームドコンセントを与えられ毛髪を抜去することで毛包を採取した.男性10名,女性10名,年齢は20歳代から70歳代であった.各毛包提供者において,初期遊出が観察された率(初期遊出率)は20.0〜100%,平均48.5%であり,毛包提供者の全例で初期遊出細胞が得られた.これにより抜去毛包からの毛包ケラチノサイトの初代培養は性,年齢にかかわらず可能であることが示された.細胞数倍加時間は,対数的増殖を示す継代3〜5代の期間において27〜31時間,平均28.4時間であった.1毛包より最終的には1.4×10^<11>〜7.3×10^<12>の細胞数が得られ,継代2代から平均約26.2回の分裂を経たことになった.細胞数倍加時間や総細胞数は毛包提供者の性,年齢にかかわらずほぼ一定であった.またRT-PCRにより,継代4代までCD34遺伝子のmRNA発現が認められた.このことから得られた細胞は個体のエイジングにかかわらない体性幹細胞であるバルジ幹細胞に由来すると考えられた.このようにヒトバルジ幹細胞は,抜毛により侵襲が少なく採取でき,エイジングに関係せず一定の細胞数を効率よく,確実に得られるため再生医療の細胞材料として有用と考えられた.